「大鹿村騒動記」を見てきました(8月1日)
公演を五日後に控えたその日。村役場の会議室は、リニア新幹線の誘致をめぐってモメにモメていた。「駅ができりゃ若い奴が戻ってくる」と主張する土木業の権三(石橋蓮司)と、「農業を捨てる人間が増えるだけ」と反論する農家の満(小倉一郎)。なだめ役の商店主・玄一郎(でんでん)。全員、村歌舞伎の役者だ。
善は、「早く稽古しようよ」と歌舞伎で頭がいっぱいだ。今年の演目『六千両後日文章 重忠館の段』は、大鹿歌舞伎きっての代表作。平家滅亡の後日談を描いたこの一大スペクタクルで、源頼朝を相手に大暴れする"敗残のヒーロー"景清こそ、善がずっと演じてきた十八番の役だった。
ところが、ようやく稽古が始まったところで、十八年前に失踪した妻の貴子(大楠道代)が駆け落ちした治(岸部一徳)とともに突然戻ってきたのだ。あ然とする善に「ごめん、どうしようもなくて……返す」と詫びる治。聞けば貴子は認知症を煩い、自分が駆け落ちしたことさえ忘れてしまったという。思わず「目ん玉くり抜いてやる」と殴りかかる善だったが、少女のように無邪気な貴子に水をかけられ戦意を喪失。
その夜、成り行きで二人を泊めてしまう。翌日、去ろうとする治に、善は「歌舞伎、見ていかないのか」と声をかける。
金のない治は温泉旅館を経営する一夫(小野武彦)のもと住み込みを始め、貴子はそのまま「ディア・イーター」に落ち着いた。アルバイトの雷音は、舞台の黒衣を務める青年・寛治(瑛太)が気になるらしい。彼は心は女、体は男という性同一性障害に悩んでこの村にやってきたのだった。
一方、善は割り切れない思いを抱えたまま、リニア問題で喧嘩した仲間の間を走りまわっていた。駄々をこねるメンバーを訪ね、おだてたりすかしたり…。だが、家に帰れば容赦のない現実が待っていた。台所の食材を片っ端から口に入れ、善が好きな味付けも忘れてしまった貴子。なぜか雷音は貴子をかばうが、善の心は暗くなるばかりだ。
あるとき貴子は、村の商店から勝手に品物を持ち出してしまう。その商品は善が好きなイカの塩辛の瓶詰めだった。必死で謝る夫を尻目に「何もしてません」と言いはる姿に、ついに善の気持ちは切れてしまう。「これじゃ景清なんかやれない」。
ところが、貴子の父でもあり、歌舞伎保存会の長老でもある・義一(三國連太郎)に詫びようと立ち上がったその瞬間、横から貴子の声が聞こえてきた。「ハテ合点の行かぬ、心有りげな夫の詞…」。景清の相手役である道柴の台詞。かつて舞台で演じ、善と結婚するきっかけになったこの役を、全ての記憶が曖昧になってもなお彼女は覚えていたのだ。
いよいよ明日が本番という日。最大風速三十メートルの暴風雨が村を襲い、女形の一平が土砂崩れに巻き込まれてしまう。幸い命は助かったものの、とても舞台には立てない状態だ。病院に駆けつけた善を前に、一平は思いがけない提案をする。そしてちょうど同じ頃、家の窓から激しい雨を見つめていた貴子は、何かを思い出したかのように、ひとり台風の中へと飛び出していった──。
サテ三百年の伝統はここで途切れてしまうのか。はたして『六千両後日文章 重忠館の段』の幕は無事開くことができるのか。小さな村を巻き込んだ大騒動の、行方やいかに!?
期待が大きすぎたのか、たしかにおもしろい映画だったが、何かが足りない。人の妻と駆け落ちして、相手が認知症になったからと言って、人の女房と駆け落ちしたことを村中が知っている村へ帰って来て、しかも前の夫に返すか?善と治は取っ組み合いをするが、貴子に水をかけられ、あっさりと仲直りする。そして治は同じ村で旅館に住み込みで働き始める。
役場に勤める美江(松たか子)は東京へ出て行った彼氏との煮え切らない関係にこだわっているが、バスの運転手をしている一平は彼女が好きで、美江が東京の彼氏に会いに行くと言うと、バスをバックさせてしまう。
一方、気持が女の雷音は舞台の黒衣を務める青年・寛治(瑛太)が気になり、本番で回り舞台を廻している最中に彼に告白する。
いろんなドタバタがあるが、村歌舞伎が村人を一つに結び付けている。そんな映画でした。