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「獣の奏者Ⅰ」(闘蛇編)を読みました(4月13日)

「獣の奏者Ⅰ」(闘蛇編)を読みました(4月13日)_d0021786_1015287.jpg 今年の4月4日に読んだ青い鳥文庫の「獣の奏者」1の続きを読みました。講談社文庫「獣の奏者Ⅰ」(闘蛇編)には青い鳥文庫の「獣の奏者」1と2がおさめられています。

 1では、闘蛇衆と結婚して獣ノ医術氏として暮らす霧の民ソヨンと、その娘でありこの物語の主人公であるエリンの物語でしたが、第3章「幼獣の献上」では真王と大公の話から始まります。はるか太古の昔、真王の祖がこの地に現れたとき、この地にあった王国は滅びの淵にあった。王位を得た兄が、謀反を恐れて、弟と、弟を支持していた家臣たちを虐殺したが、辛くも難を逃れた弟の長子が成長し、貴族たちを率いて父の仇である王を襲った。両者の力は拮抗して、容易に決着はつかず、多くの民をも巻き込んだ悲惨な戦の末に、王も弟の長子も戦死してしまったのだという。

 長い戦に土地は荒れ、人身も荒れはてていたとき、神々の山脈の向こうから、真王の租が、この地に降臨した。屍が累々と転がる広大なのを王租が歩けば、その頭上には決して人に馴れることのない王獣が、あたかも王租を守護するかのようにはばたき、河に至れば闘蛇が頭を垂れて、道を作ったという。

 輝く髪と金色の髪を持つ丈高き王祖ジェに、この地の人々は清らかな神の威容を見た。そして、自分たちのところにとどまってくださるようにと、ひれ伏して祈った。

 彼らの願いを聞きとどけて、王祖はこの地にとどまった。王祖は、ばらばらになりかけていた貴族、職人、商人、そして農民を母のように抱き、国の礎を築きなおしたのである。

 これがリョザ神王国の始まりである。

 長いあいだ、おだやかな時が過ぎたが、四代目の王の時代に隣国のハジャンが、リョザ神王国に攻め込んだ。

 王は殺生を穢れとし、手向かいをせず、敵にわが首を差し出そうとしたが、臣下の一人がそれを押しとどめた。

 ――王がお命を差し出しても、そのお心がハジャンに通ずることはございますまい。ハジャンがこの国を征服すれば、苦しむのは民でございます。我、あえて穢れに身を落とし、これよりさき、王都に住むことなく、領外にて生きまする。どうか民を救うため、我に、神宝<闘蛇の笛>をお与えください。

 王はこの臣下の志を徳とし、<闘蛇の笛>を彼に与えた。臣下は彼に従った男たちを率いて大河アマスルに向かい、<闘蛇の笛>を用いて闘蛇に乗るや、河を泳ぎ、地を駆けて、ハジャマの軍を打ち破った。

 この臣下こそ、ヤマン・ハサル――シュナン(大公の長男)の祖先である。ヤマン・ハサルは王に誓った言葉どおり、山を越えて領外に出た。また、王は彼に大公の称号を与え、山向こうの土地を治めることを許した。

 ヤマン・ハサルの孫、オシク・ハサルは多くの闘蛇を育て、豊かな隣国を次々に攻め落とし、領土を広げ、富を蓄えるようになった。それに比べ山がちな王領では年によって収穫の変動が激しく、交易も盛んとはいえなかった。王は大公からの貢物を最初は断っていたが、背に腹は変えられず受け取るようになった。

 数世代にわたって大公の臣民として暮らしてきた人びとの胸の中には、血を流し、穢れをあえてかぶって、この国を支えているのは自分たちであるという思いがある。この不満から生まれたのが、大公をリョザ神王国の王にと望む<血と穢れ>という集団である。彼らは真王こそ、国を分裂させ、発展を滞らせている元凶であると主張し、真王を弑し、大公を王位につけることが、リョザ神王国を繁栄に導く道であると説いた。

 そして、真王の60歳の誕生日のお祝いの席で、甥のダミヤから王獣の子どもを贈られる。
真王は堅き盾と呼ばれる警護のものに守られている。堅き盾のイアルが一瞬、幼獣に気をとられていた隙に、木の上に隠れていた刺客の矢が真王めがけて射られた。同時に気がついたイアルは刺客に矢を放った。イアルの矢は刺客に命中し、木からどさりと落ちた。だがその前に刺客が放った矢は幼獣の背を傷つけ、真王の前に立ちふさがったイアルの腹に突き刺さった。

 一方ジョウンとエリンのもとには一人の若者が訪ねてきていた。彼はジョウンの息子のアサンだった。ジョウンは王都最高学舎の教導師長をしていたが、高級官僚の息子の成績を不正に良くするようにと言われたが、それを断った。ところがその息子が自殺してしまい、その責任を取って彼は身を引いたのだった。ジョウンは健康への不安もあり、息子の意見を入れて町へ戻ることにする。エリンはジョウンと話し合って、ジョウンの友人であるエリサがいる王獣保護場の学舎に入ることになった。

 王獣保護場の学舎でエリンは傷ついた幼獣を見せられ、この幼獣の世話をさせてくれるようにとエリサに頼み込んだ。この幼獣は真王の60歳の誕生日に贈られて、刺客の矢で傷ついていたのだった。えさも食べず、暗いところで衰弱していく幼獣を何とか助けたいと思うのだった。かつてジョウンとみた野生の王獣の親子の様子を思い出しながら、幼獣がえさを食べるようにいろいろと工夫するエリンだった。

 上橋菜穂子のファンタジーは描かれている人間が生き生きと描かれており、内面の醜さ、弱さも含めて描かれているのがすばらしい。まだⅠを読んだだけだが、架空の生き物・闘蛇と王獣を人間が飼いならし、自分たちのために使うという人間のエゴイズムに対して、著者はエリンの母・ソヨンの口を借りて、「人に操られるようになった獣は、哀れだわ。野にいれば、せいもしも己のものであったろうに、人に囲われたときから、どんどん弱くなっていくのを目のあたりにするのは、つらかった……」と言っている。

獣の奏者Ⅰ(闘蛇編) 上橋菜穂子著 講談社文庫 2009年8月12日発行 629円+税
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by irkutsk | 2014-04-14 10:15 | | Comments(0)