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「私の男」を読みました(7月3日)

「私の男」を読みました(7月3日)_d0021786_944610.jpg6月16日に映画「私の男」を見に行き、どうもよくわからなかったので原作本を読んでみることにした。その後、モスクワ映画祭でグランプリを受賞、また主演男優賞を浅野忠信が受賞した。

「奥尻島で起きた震災と津波により両親を失った10歳の少女と、その少女の養父となった遠縁の男との秘密の愛を描いたもの。15年間、互いを助けながら生きていく二人の関係は禁断の愛へと変わっていく」という内容なのだが、主人公・腐野淳悟(浅野忠信)と竹中花(二階堂ふみ)の関係がいまいちよく分からなかった。

原作本は構成からして驚くようなもので、現在から過去へと遡っていくという形で章立てが行われている。第1章2008年6月「花とふるいカメラ」では花が尾崎美郎と結婚するというところから始まる。そしてフィジーへの新婚旅行から帰ると、以前父と二人で住んでいた「銀の夢荘」の大家と名乗る男からのメッセージが携帯の留守電に残されていた。「一部、腐野さんの処分されていない荷物もありまして、連絡先に書かれていたこの番号におかけしました。またかけ直しますので」。花は淳悟の住んでいたアパートに駆けつけ、そこでかつての淳悟の恋人であった小町と出会う。「処分されない荷物」は父の罪を隠したものと思っていたが、それはなくなっていた。

第2章2005年11月「美郎と、ふるい死体」では花が短大を卒業し、派遣として大きな会社の受付をしていた。そしてそこの社員に声をかけられ、尾崎美郎と知り合う。そして彼とつきあいはじめることに。そしてある雪がちらつく日、二人は食事をした後、美郎が花を家まで送っていく。そして外で、しかも薄着で、花の帰りを待っている淳悟と対面する。二人のアパートへ行き、このあたりは、この時間、この天気ではタクシーはつかまらないよと言われ、始発電車までアパートで過ごす。

第3章2000年7月「淳悟と、新しい死体」では、北海道から刑事の田岡が淳悟と花を尋ねてくる。花は学校に行っていて不在だったが、田岡は花に会うのが目的だった。紋別町で町の顔役ともいえる大塩老人が流氷の上で凍死していた事件について、花が彼を流氷の上に置き去りにしたのではないかという確信を持ってやって来たのだった。淳悟は田岡を包丁で刺して殺し、そこへ花が帰ってくる。

第4章2000年1月「花と、新しいカメラ」では高校生の花と淳悟がセックスをしているところを大塩老人に見られてしまう。そして学校帰りの花を捕まえて、大塩老人は花に旭川の別の親戚のうちへ行くようにと言う。だが花にとってそれは淳悟と引き裂かれることでとうてい受け入れることはできなかった。そして彼女は大塩老人を殺すことに決めた。しつこく旭川へ行くことを勧め、二人の関係を知っていて、それは人間のすることじゃないと言う大塩老人を流氷の上に置き去りにし、一人家へ帰った花だった。淳悟は海上保安官でしばしば家を空けていて、その日も仕事でいなかった。淳悟と花は春を待たずに東京へと去った。

第5章1996年3月「小町と凪」
この章は淳悟の恋人だった小町の語りで描かれている。小町と淳悟が出会ったのは小町が高校に入学したときで、淳悟は二学年上の先輩だった。淳悟は小4のときに漁師だったお父さんが海で亡くなり、中学の時に母親も病気で倒れ、淳悟は遠くの親戚のうちに預けられていた。でもなにか問題を起こして半年で紋別に帰ってきた。淳悟が花を引き取った後も二人の関係は続いていた。小町は花に近づこうとするのだが、子どもらしくない彼女のことが苦手だった。

第6章1993年7月「花と、嵐」
第6章は9歳の花の語りで描かれている。花は奥尻島に住んでいた。お父さんは若い頃は出稼ぎをしていたが、花が生まれた頃に島に戻って海沿いの小さな民宿を引き継ぎ、お母さんと民宿の仕事をしている。お兄ちゃんと妹はお父さんに似て目も花も大きくて眉も濃いけれど、わたしだけ目も切れ長で、顔も体も細くてぜんぜんちがった。大きな地震がきて、その後、津波が来るからと父親におぶわれて高台へ避難していた。波に追われてお兄ちゃんが自転車で坂道を上がってくるのが見えた。わたしは前を年寄りばかりを乗せて走っていた軽トラックに乗せられたが、そのすぐ後、黒い水が体を包んだ。生き残ったのは私だけで家族はみんないなくなってしまった。避難所になっている中学校の体育館に生き残った人が集まっていた。そして亡くなった人たちの遺体も次々に運び込まれた。そんな中親戚だという人がやってきて、私を引き取り、車で遠くへ連れて行ってくれた。

映画は時間を追って奥尻島の地震から始まり、最後は花の結婚式で終わるのだがテーマが重い。つまり淳悟は高1のとき奥尻島の親戚に預けられ、そこでおばさんとの間に子どもを作ってしまう。それが花なのだ。そして地震の時、彼女を迎えに行き、養子縁組をして親子として暮らし始める。実の親子でありながら、肉体関係を持ち、二人ともそれに溺れていく。その事実を知り、花を旭川へ行かせようとした大塩のおじいさんを花が殺し、二人は東京へ。その東京へ今度は刑事の田岡がやってくる。淳悟は花の罪がばれないように彼を殺す。そしてこれらの犯罪を通じて二人はよりきつく結びつくのであった。家族とは何かを知らない二人が織り成す倒錯の世界に衝撃を受けた。

「私の男」 桜庭一樹著 文芸春秋 2007年10月30日発行 1476円+税
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by irkutsk | 2014-07-03 09:44 | | Comments(0)