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「乱暴と待機」を読みました(4月12日)

「乱暴と待機」を読みました(4月12日)_d0021786_10281745.jpg3月10日に見に行った映画「乱暴と待機」の原作を読みました。映画とは少しずつ設定が違いますが、大筋は同じだし、映画での配役がイメージとして浮かび、面白く読むことができました。

保健所で犬を殺す仕事をしている英則と彼を「おにいちゃん」と呼ぶ奈々瀬。彼らが二人で暮らしているぼろ家はモスグリーンの絨毯に妙にしっくりきているちゃぶ台。それと最小限の家具。砂地の壁には大きな月捲りのカレンダー‥‥。そして鉄製の二段ベッド。

彼らは本当の兄弟ではなく、もともとは隣同士の家族だった。そして男の子一人、女の子一人のそれぞれの家族は親しく付き合っていて、その頃から兄妹のように過ごしていた。しかしある不幸な事故がこの家族を襲った。二家族でドライブに出かけた帰り道、奈々瀬は英則の家族の車に乗っていた。そして遮断機が降りようとしている踏み切りに入ったところで車が動かなくなり、電車が来る寸前に車から逃げ出した子ども二人は助かったが、英則の両親は亡くなってしまった。英則もこの事故のときに右足を負傷し、膝から下の自由が利かなくなり、ずっと右足を引きずって生きることになった。

そして奈々瀬は短大卒業後、東京に出てフリーペーパーを発行する小さな会社の契約社員になった。自分のことを知っている人間がだれもいない東京に行って、がらりとキャラクターを変えてやろうというつもりだったが、その試みは見事に失敗に終わった。架空の読者投稿を書いたり、占いコーナーの文章を考えたりと仕事の内容も悲惨なものだった。その会社を辞め、いくつかバイト先を変えても、ハムスターの滑車がかごの外へ飛び出す軌跡は起こらなかった。好かれようと頑張れば頑張るほど人々の対応が熱を失い、鬱陶しがられた。奈々瀬はますます自信を失い、自信を失えば挙動不審になる。挙動不審になれば人々が自分から離れる。離れれば自信がなくなるという見事な悪循環に陥っていた。

英則が奈々瀬のアパートの前に突っ立っていたのは、そんなときだった。彼に会ったのは8年ぶりだった。事故の後、英則は親戚に引き取られていたのだった。彼は奈々瀬に「確実に間違ってなかった時までさかのぼったら、お前に辿り着いた」と言い、「俺の人生を狂わせた責任を取らせる」と言って奈々瀬を最終の新幹線で英則の住む集合住宅へと連れ帰ったのだった。

そして二人の奇妙な生活が始まった。奈々瀬は笑うことを失った英則のために毎日面白いギャグを考えてノートに書きとめることが日課になった。ちょっと大き目のグレイのスェットを着て度の入っていないめがねをかけ、ほとんど外の世界とは関係をもたないようにしていた。英則は、理由はわからないが「復讐する」ことに執着し、奈々瀬もなぜかわからないが「復讐される」ことを待ち続ける。そして一緒に住んでいながら、お互いの体には触れないという生活が続いていた。

そこに現れたのが、番上という英則の同じ職場に勤める男だった。番上はまだ今の職場に入って日が浅く、毎日、毎日犬を殺し続ける仕事に精神が参っていた。夜も夢でうなされ、汗びっしょりになって目が覚めるのであった。それで長年この仕事を続け、平然としている英則に相談しようと思って二人の住む平屋建ての集合住宅へやって来たところからこの話は始まる。

英則は一人でベッドに寝転がっている時、ふと天井板の一部がずれていることに気づき、その板を外して天井裏に上ると部屋の中が見えるということを発見した。そして毎日、マラソンに行って来ると言って家を出て、外から天井裏に入って、奈々瀬の様子を覗くようになった。

番上にはあずさという彼女がいて、偶然にもあずさと奈々瀬は高校の同級生だった。そして高校生の頃の奈々瀬のことを知っているあずさは番上が奈々瀬に近づくことを警戒していた。というのは、奈々瀬は人に嫌われたくないという思いから、相手の言うことを断われず自分の気持ちとは裏腹に相手の言うままになって、高校時代は誰にでもセックスさせてくれるといううわさで、あずさの彼氏も奈々瀬とセックスをしたと言う。そんな奈々瀬にあずさはガマンがならなかった。

番上、あずさ、英則、奈々瀬4人の男女が繰り広げる不思議な世界。結末がどうなるのか、英則と奈々瀬の奇妙な世界はどうなるのか、番上は奈々瀬とあずさとどうなるのか。英則は?

映画もおもしろかったけど、本もそれ以上におもしろかったです。

「乱暴と待機」 本谷有希子著 メディアファクトリー発行 
2008年2月29日発行 1300円+税
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by irkutsk | 2011-04-12 10:28 | | Comments(0)