「「長生き」が地球を滅ぼす」を読みました(4月14日)
人間はまるで動物ではないかのようにふるまっていますが、生物学的にはれっきとした動物であり、そのことを今一度自覚し、これからの高齢化社会をいかに生きるかを示唆しています。
この本の中で気に入った部分を紹介します。
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すでにご存知のようにゾウの時間とネズミの時間は物理的には同じでも、生物学的には異なっています。どちらも一生の間に打つ心臓の回数は15億回。物理的な時間を基準にするとネズミの一生は1年間と短くて、ゾウの時間は70年と長いのですが、ネズミは自分の一生を短いと思っていませんし、ゾウも自分の一生を長いとは思っていません。密度は同じなのです。成獣のサイズに達する時間、性的に成熟するまでの時間、懐胎期間などは全て体重の4分の1乗にほぼ比例しているそうです。つまり大きな動物はそれだけ時間がゆっくりと流れているのです。またエネルギーとの関係もあり、エネルギーを使えば使うほど時間が速く進むということも明らかになっています。
体は使えば使うほど損傷していき、その都度修理しているのですが、長年使用しているとこれ以上直すよりは全て捨ててしまって新しいのに作り替えたほうが経済的という時期がきます。新しい自分とそっくりの子どもを作り、古いからだ(親)の方は壊れて死ぬにまかせます。
生物とは生き残ってなるべく多くの子孫を残すという目的を持ち、その目的を果たすべくエネルギーを使いながら複雑な体を作り上げ、維持し、動かしています。そして新しい系統の祖先となるのは小さいサイズの生き物です。突然変異で新しいものが生じるのは子どもを作るときなので、世代交代が早いものほど新しいものが出てくる確率が高くなります。また、サイズが小さいものは個体数が多く、変わったものが出現する確立も高いのです。
生物が生きて行くうえでの必要なエネルギーも個体の大きさに比例しているのですが、人間は体が使う代謝エネルギーの他に環境を自分たちが生活しやすくするために膨大なエネルギーを使っています。その量は体の代謝エネルギーの80倍です。10倍以上のエネルギーを使うとヒトとしてのアイデンティティを保てなくなるということを、1gと2gの重さの区別はできるが、100gと101gの区別はできないという例をあげて説明しています。
人間の老化は40歳ぐらいから始まり、50歳を過ぎるとガタのきた体を抱えて生きていかなければなりません。昔の人は50歳ほどで死を迎えても、その人の意識の中には自分より若くして死んでいった兄弟友人の面影がたくさん浮かんできた。みんなより長く生きられてありがたいと感謝して死ねる条件があったが、現代人は周りみんなが長生きで、50歳で死ぬなんてとんでもない。80歳になって平均寿命で死ぬにしたって、周りに長生きしている人がたくさんいる。「もっと生きられるはずなのに‥‥」と感じてしまう。
老いの時間はスカン、スカンで、起きていても半分寝ている状態です。老人はエネルギー消費が少なく、そのため子どもの時間より2.5倍ゆっくりと時間が流れています。また睡眠時間もそのために短く70歳を過ぎたら6時間以下になります。(生まれたばかりの赤ちゃんは16時間も眠ります。)
生物学的には50歳以降の生には意味がありません。親を大切にする生物学的根拠はありません。親孝行はせいぜい子が50歳になるまで。その後は親といえども子に対して孝行を強要することはできません。
50歳以降のおまけの人生をどう過ごすか。第一に、子どもを作り、育てるために一生懸命働くのは生物として当然の行為で、それが終わったら消えて行くのが生物。ごほうびを期待する権利はありません。長寿は多大なエネルギーを消費するのだから、老人も一方的にサービスを受ける存在としてだけでなく、それなりに働いて存在を認めてもらえるだけの価値を作り出す必要があります。
第二に人間の体は50パーセントが筋肉で、筋肉は動くためにあります、体を動かさなければ体の半分は不幸になります。
第三に老後(おまけの生)を自分だけのために使うのではなくて、次の世代のため、そして人類の未来のために奉仕の精神で使わなければなりません。
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本川さんは植物についてエネルギー問題を解決したために長寿が可能になったと言っています。一方人間は原子力などという自然界にある物を壊して無理やりエネルギーを取り出して大変な事態を惹き起こしました。また産業革命以後、科学技術の発達はめざましいものがあり、そのことが人々に科学信仰を蔓延させ、新しい科学技術が開発されて、今の環境問題やエネルギー問題は解決されるという思い込みで、現在のエネルギー浪費社会がますます推進されています。
人間も地球の一部、動物の一部ということを改めて認識し、節度ある生活をしなければと思いました。
「「長生き」が地球を滅ぼす」―現代人の時間とエネルギー 本川達雄著
阪急コミュニケーションズ 2006年1月23日発行 1,600円+税