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「阪急電車」を読みました(4月28日)

「阪急電車」を読みました(4月28日)_d0021786_85350100.jpg宝塚から西宮北口まで走っている阪急今津線。その15分の車内で起こる人と人との出会いが描かれている名作です。ふだん何気なく電車に乗っていると、電車は単なる移動手段で、車内では本を読んだり、居眠りしたり、ぼんやりとつり広告や車内の人を眺めていたり。

しかし電車は、乗っている人の数だけの人生を詰め込んで毎日走っている。著者の有川さんはその電車内で見られるさまざまな人間同士の係わり合いを見事なタッチで描き出している。

最初は図書館で読みたいと思っていた本が戻って来ていて、それに手を伸ばそうとしたとき他の女性にさっと取られてしまった。その女性の顔を見て自分の好みのタイプだったので何もいえず、でもその後、彼女のことが気にかかるようになった。そしてたびたび図書館で遭遇する彼女を観察していると本の好みが似ている。そして彼女のほうが面白そうだなと思う本を発掘するのがうまかった。ある日、帰りの電車で一緒になり、彼女が隣に座ることに。そして武庫川の鉄橋を渡る時、外を見ていた彼女が「あ?」と声を出す。つられて外を見ると川の中州に「生」という字が石を積まれて作ってある。この石で作られた「生」という字をきっかけに彼女と話し始め、彼女はあの字を見て「生ビール」を連想したという。そして彼女が降りる逆瀬川駅に着く頃、「この次会ったとき、一緒の飲みましょうよ。私缶じゃなくてジョッキでいきたかったんです」「中央図書館よく来てるでしょう。だから、次に会ったとき」と言われ、“ジョッキで行くなら今日やろ!”と思い、あわてて電車を降りて彼女を追いかけた。

次の話は宝塚南口から乗ってきた花嫁と見まがうばかりの白いドレスを着た翔子。同じ会社の同僚である婚約者を後輩に寝取られ、後輩が妊娠し、彼女は別れ話を切り出される。そして別れる条件に二人の結婚式に招待するように要求したのだった。その結婚式からの帰りにこの電車に乗ったのだった。

そして彼女に声をかけたのは曲がったことが何より嫌いなおばあさん。孫娘を連れてこの電車に乗ったのだが、翔子のただならぬ様子に声をかけたのだった。

電車が止まる駅ごとに、新しい話が展開されるのだが、その話は電車という空間でつながっている。電車が駅に着くたびに降りる人、乗る人がいて、その人たちが電車の中という僅かな時間、同じ空間を共にする。そこから何かが生まれていく。

かつて、電車が非日常の世界であったとき、電車の中では知らない人同士が気軽に声を掛けて話をしていた。でも電車が日常世界に取り込まれると共にそんな光景もめっきり目にしなくなった。先日読んだ本では人数が多くなればなるほど、詰まり満員電車になると、人間は意識上、人を人と認識せず物としか感じないのだそうだ。

この本は西宮北口までの各駅から乗ってくる人、乗っている人、降りる人のいろいろな人生が心温まるタッチで描かれている本で、読み終わった後、ついこの電車に乗りに行きたくなりました。久しぶりに読んだ後にさわやかな5月の風が心の中を通り抜けるような快感を味わいました。

名古屋地区では4月29日から名古屋駅南の109シネマズでこの本を原作にした映画「阪急電車」が上映されます。

「阪急電車」 有川浩著 幻冬舎文庫 2011年8月5日発行 533円+税
「阪急電車」を読みました(4月28日)_d0021786_8541781.jpg

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by irkutsk | 2011-04-29 08:54 | | Comments(0)