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「八日目の蝉」を読みました(6月1日)

「八日目の蝉」を読みました(6月1日)_d0021786_15481488.jpg先週、豊田市立図書館で角田光代の「四月一日」を読んで感動し、すぐに「八日目の蝉」を買った。そして本を読んでから、現在上映中の映画を見に行くことにした。

物語は希和子が日野市に住む不倫相手の秋山丈博と妻恵津子のもとから子どもを連れ去るところから始まる。恵津子は丈博を駅まで送っていく時、いつも赤ん坊を一人残していくことを希和子は知っていて、二人の留守の間にアパートの2階の部屋に忍び込む。

最初から赤ん坊を奪うつもりはなかった。だが赤ん坊を見ているうちにかわいくなり、こんなかわいいわが子を一人残していくなんて。私だったらこんなところにひとりきりにしない。わたしが守る。そして希和子は赤ん坊をくるむようにして抱き、駅と反対方向へ向かう。

その後、彼女は学生時代からの友人康江のところへ身を寄せる。彼女は結婚していて、2歳の女の子がいた。彼女には「今つきあってる人がいて、その人の連れ子だという。奥さんが好きな人ができて、子どもを置いて出て行ったので、男が子どもを連れて私のところに転がり込んできた。でも彼はこの子に手を上げるの。お酒の量もすごく増えてきて。それで逃げてきたの」と嘘をつく。

六日後彼女のアパートを出て、行く当てもなく新幹線に乗り名古屋で降りる。1日目は顔を見られなくてすむラブホテルに泊まり、翌日公園で途方にくれていると一人の女が「あんた、帰るところないの」と声をかけてきた。その女はいったいどれくらい重ね着をしているのか、さほど背は高くないのに、上半身が着膨れて大女に見える。毛玉のついた長いスカートの下から、分厚いタイツをはいた足が伸び、サンダルをつっかけている。肌つやはいいが若くは見えない。何歳なのかという見当がまるでつかない不思議な風貌の女だった。

彼女についていき、彼女の家にしばらく滞在させてもらった。彼女は立ち退きを迫られている家に頑としてとどまり続けているおばさんだった。娘が東京にいて、この家はすでに売られているのだが、彼女が立ち退きを拒否しているので困っているのだった。東京の娘から電話がかかってきて「あんただれ?ちょっと人んちあがりこんで何してんのよ、警察に通報するよ」と言われ、その言葉に息が止まりそうになり、そこを飛び出す。

そしてバンで自然食品を売りに来ているエンジェルという団体に連れて行ってくれと頼み込む。そして子どもと二人エンジェルという女性ばかりのカルトっぽい団体で生活することになる。そこでは私有財産は認められず、持っている全てのものを団体に差し出し、みんなが仕事を分担して農作業や、子どもの教育、家畜の世話、掃除、物資の販売などを行なっていた。娘の薫はここでリベカという名前をもらい、希和子はルツという名前をもらう。父親の遺産と自分の貯金4千万円もエンジェルに差し出す。そして外界とは隔絶された塀の中で2年半近く生活していたが、エンジェルに入っている子どもを返せと親たちが塀の外で抗議活動を続けるようになり、いよいよ警察の立ち入り調査が行なわれることになった。

希和子は薫を連れてこの施設を出ることを決意する。そしてエンジェルで友達になった久美からそこへ行くようにと実家の住所を書いた紙をもらう。当てのない希和子は久美の実家がある小豆島へと向かう。

久美は24歳で結婚し、両親と別居が条件だったのに妊娠を機に同居することになり、25歳で男の子を生んだ。姑が独り占めするように赤ん坊の面倒を見、久美は抱かせもらえなかった。夫は両親を立てるばかりで久美の話を聞いてくれず、そのうち家にあまり帰らないようになった。外に女がいることがわかって、そのことを責めると帰って来てお前の文句を聞くのはうんざりだと言い、舅、姑も息子の浮気は久美に非があるからだと言い張る。久美は子どもを連れて家を出たが、夫と彼の親が追いかけてきて子どもを連れて行った。裁判まで起こされ、親権もとられてしまった。

久美の実家を訪ねて行き、久美からの伝言を伝え、パート募集の張り紙を見てここで働かせてもらえないかと言うが、それは2年前から張りっぱなししてあるもので今のところは手は足りていると言われる。しかたなく久美の実家を後にし、運よくラブホテルの客室清掃係募集、住み込み可という張り紙を見つけ、薫のためには良くないと思いながらもそこで働くことにする。

そしてしばらく経ったある日、久美の母親が、希和子がそんなところで働いているのを知り、ちょうど人がやめて新しい人を欲しいところだからと自分のところの素麺工場で働くようにと勧める。家も親戚のアパートを借りてくれて、薫と二人の生活は順調に進んでいた。薫も近くの子どもたちと一緒に遊ぶようになり、希和子は二人の生活が明日もあさっても続くように願いながら毎日を過ごしていた。

ところが些細な一枚の写真から全ては崩れ去った。

2部構成の小説はここで1部が終了し、2部は成人した薫(恵理菜)の物語。恵理菜は4歳で突然知らないおじさんとおばさんのところへ連れてこられ、育てられることになった。彼女にとっては小豆島での希和子との生活が懐かしく、家を逃げ出して戻ろうとする。

そんな彼女が、希和子と同じように妻子ある男と付き合い、妊娠してしまう。

2部では、希和子と不倫相手の丈博の関係、そして執拗に電話をかけてくる丈博の妻恵津子、実の両親の元へ帰ってからの恵理菜の生活、そして大学入学を機に両親の反対を押し切って一人住まいを始めた恵理菜のことが書かれている。そしてかつてエンジェルホームで一緒に生活していたという千草という年上の女性ルポライターが彼女に近づき、彼女の過去を思い出すのを手伝う。そして妊娠した彼女を支えてくれるのだった。

どちらが悪くて、どちらが良いとは言い切れない、どうしようもなくせつない本でした。不倫の末に堕胎までさせられた希和子、生後4ヶ月の赤ん坊を盗まれた夫婦、4年間の空白の後帰ってきた娘にどう対処したらいいのか戸惑う両親。母親は希和子だと思って小豆島で暮らしていたのに、突然母親と引き離され、知らないおじさん、おばさんと暮らさなければならなくなった理不尽を引き受けざるをえなかった恵理菜。でも救いは、希和子と同じ立場に立たされた恵理菜が希和子とは違った選択をして、前向きに生きようと踏み出したことである。

ストーリーだけでなく物語の構成、人物の描き方など全てについて素晴らしい作品です。読んでいて息をもつかせず、ぐいぐい作品の中に引き込まれます。

「八日目の蝉」 角田光代著 中公文庫 2011年1月25日発行 590円+税
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by irkutsk | 2011-06-01 15:48 | | Comments(0)