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「「ぢ」と「じ」の謎」を読みました(6月8日)

「「ぢ」と「じ」の謎」を読みました(6月8日)_d0021786_13431494.jpgタイトルに惹かれて友人のところにあったこの本を借りてきました。
「鼻血」は「はなぢ」なのに「地面」はどうして「じめん」なのか。「地」は「地球」の「地」なのだから「ぢめん」ではないのか。「自治」の「治」は「ち」でも「政治」の「治」は「ぢ」ではなく「じ」、「手近か」の「近」は「ぢか」。「差し詰め」は「さしずめ」、「大詰め」は「おおづめ」。

「熔岩」を「溶岩」と書く。昭和21年に当用漢字が公布されるまでは「熔岩」と書いていたが、「熔」が当用漢字から外れたので「溶」で代用することになった。「煖房」は「火によってあたためる」の意味で、「煖」を使っていたが、「暖」によって代用され「お日さまであたためる」といった意味にされてしまった。

ようやく昭和56年当用漢字から常用漢字へと変更になり、当用漢字の「これ以外は使ってはいけない」から常用漢字の、「この漢字を使いましょう」という目安へと変わった。

また本書では明治初期、欧米に追いつけ追い越せで日本語自体をやめてしまおうという動きもあったが、日本語は生き残ってきた。しかしそれ以後もずっと漢字、ひらがな、カタカナを覚えるのは負担だから、欧米のように表音文字のアルファベットを使おうという動きは続いていて、終戦後も全部ローマ字にしようという動きもあった。

中国から日本に漢字が伝わってきた時、日本人は大変賢い選択をした。決して漢字に飲み込まれることなく、日本独自の漢字の読み方「訓読み」を発明したのです。

さらに本書では漢字教育についても石井勲先生が打ち立てられた漢字教育の理論を紹介しています。それによると「まず、漢字を読めるようにし、後から書くことを学習する」、漢字を理論的、体系的に学ぶ「漢字の成り立ち学習」が二つの柱である。

給食のメニューで「むしパン」と書いてあるのを見て、生徒が「何の虫が入っているの」と聞いた話、土屋家の家訓をひらがなで書くと「もうこりた」で「もう懲りた」と思う人もあるかもしれないが実は「忘己利他」である話など、今の学校教育では学年で習う漢字が決まっていて、未習の漢字はひらがなで書くことになっている。そのために変な思い違いも生じてしまう。

小学生の漢字習得能力は低学年ほど高い。1年で400から500の漢字を読んでしまう。子どもの能力は繰り返しが好きで、繰り返しを要求します。さらに難しいものほど興味を持ち、スポンジのように吸収しようとします。一方大人の脳は繰り返しが苦手で、難しいものは吸収を拒絶しようとします。繰り返しが得意な低学年でたくさんの漢字の読みを学ばせ、学年が挙がるにつれて提示する漢字の数を減らすほうが好ましい。

そして最後に乱暴な言葉からは暴力や復讐などが生まれ、美しい心は美しい言葉から生まれると言っています。強い心とは力強い言葉、その言葉を聞くと勇気が湧いてくるような言葉から生まれます。優しい心は優しい言葉からしか生まれません。

美しい言葉を育む上で重要となるのが「文語文」、つまり書き言葉です。現代の若者の言葉が乱れているのは書き言葉をしっかりと身につけてこなかったことと関係していると思います。書き言葉が話し言葉を善導、つまり正しく導くのが日本語です。話し言葉が上手になるか否かは書き言葉の力によって決まるわけです。

今の日本語の抱えている問題点を明治初期まで歴史を遡って詳しく解説し、現在の学校での国語教育の問題点も指摘し、日本人が日本人でありえるのは日本語を通じてであるということをわかりやすく述べた本です。

日本語教師をしている私にとっても大変参考になりました。外国人に漢字を教える時、ついつい読みと書きを同時に教えていますが、書くことはあまり必要ないので、読みを中心の漢字教育でいいのではないかと私も感じていました。

「国語の先生も知らなかった日本語「ぢ」と「じ」の謎」 土屋秀宇著 
光文社知恵の森文庫 2009年6月20日発行  705円+税
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by irkutsk | 2011-06-08 13:43 | | Comments(0)