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「なぜうつ病の人が増えたのか」を読みました(8月13日)

「なぜうつ病の人が増えたのか」を読みました(8月13日)_d0021786_10532829.jpg精神科医の立場からなぜうつ病が増えてきたのかを独自の観点から明らかにしたユニークな一冊です。製薬業界の裏側も書かれていて、なるほどと感心させられました。

製薬会社が病気の啓発活動を行い、病気の認識を高め、処方薬の売上を伸ばす。これは基本的に自由な商行為です。しかし、アメリカで1994年~2003年にかけて未成年で躁うつ病と診断された患者が何と40倍にもなったという事態がありました。2003年の患者数は80万人、何と子どもの1%です。

昔から躁うつ病の治療薬としては安価なリチウムが使われてきましたが、90年代に入り抗てんかん薬や非定型型抗精神病薬が躁うつ病治療薬に承認されました。これはリチウムに比べると非常に高価です。米国の製薬会社は一斉に躁うつ病のキャンペーンに乗り出しました。テレビ、教育施設、家庭、精神科医などに対して働きかけを強化しました。その結果次々と子どもに対して躁うつ病との診断がなされ、高価な抗てんかん薬や非定型型抗精神病薬が処方されたのです。

日本でも同様な事例があります。脳循環代謝改善薬が1980年代に認可され、1990年には売上が2000億円にもなりました。売上が伸びすぎたために大蔵省が厚生省に薬の有効性に疑問を投げかけ、再評価が行なわれ次々と承認を取り消されるということがありました。

製薬会社は研究開発に力を入れるよりも、プロモーション活動に力を入れたほうが収益を出しやすいと考えており、日本の製薬会社の研究員は2万人なのに、MRは6万人もおり、医師5人にMRが1人という割合で、これは世界一です。

医者も薬についてはMRからの情報や有名医師の意見に頼るところがあるそうです。

ところで、うつ病についても1990年頃からアメリカでSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の発売に合わせ、製薬会社による大キャンペーンが繰り広げられました。うつ病は病気であり、薬で治る、早期受診による治療が必要であるという啓発活動が功を奏し、SSRIは爆発的に売れました。アメリカでの成功はヨーロッパ、日本へと世界を駆け巡り、日本でも1999年以降、抗うつ薬の売り上げが急上昇し、それ以前日本の抗うつ薬市場の売上は年間170億円だったのに、2007年には1000億円(うちパキシル単独で500億円)にもなりました。

うつ病が急増したのは日本社会の変化にあったのではなく、製薬会社による啓発活動の結果だということでした。

うつ病だけではなくいろんな病気に対して啓発活動は行なわれているような気がします。最近では認知症などもそうでないかと思われます。最初は製薬会社が啓発活動をやっていても、それが順調に動き出すと市町村や医師会なども自主的に啓発活動をやってくれるようになりますね。病気の早期発見、早期治療につながるのはいいのですが、それが製薬会社の収益拡大のために行なわれていると思うと何となくスッキリしません。

「なぜうつ病の人が増えたのか」 冨高辰一郎著 幻冬舎ルネッサンス 2009年7月10日発行 1500円+税
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by irkutsk | 2011-08-13 10:53 | | Comments(0)