「図書館危機」を読みました(8月13日)
第3作目の「図書館危機」では、まず主人公の笠原と同期の手塚の昇任試験から始まり、雑誌「新世相」の編集者折口が新進人気俳優香坂大地のインタビューをし、今まで語られなかった香坂大地の生い立ちを取材します。香坂大地は両親に捨てられ(双方に浮気していて、子どもをどちらが引き取るか、どちらも引き取りたくないということでもめていた)、床屋をしていたおじいちゃんに引き取られ、おじいちゃんに育てられたという話だった。
ところが雑誌「新世相」側では「床屋」という言葉が差別用語だとして自主規制し、「理容師」とか「散髪屋」という言葉に変えられていたのです。香坂大地やおじいちゃんは「床屋」という言葉に何の差別も感じないし、それを差別用語だという方がおかしいといきまくのでした。
さらに、第4章では茨城県立図書館に隣接する近代美術館と共同開催している美術県展でメディア良化特務機関の制服の前身ごろが大きく切り裂かれ、その切り裂かれた穴から向こうに青空が覗いているというコラージュ『自由』が最優秀賞をとって展示されるということになった。当然展示を阻止しようとするメディア良化特務機関の攻撃が予想され、関東図書基地の半数のが警備の応援に駆けつけることになった。
ところが茨城県立図書館には行政からやってきた女性の館長がいて、彼女は「無抵抗者の会」という組織にすっかり取り込まれており、検閲から本を守れず、付属の図書防衛隊は抑圧され、戦う能力を喪失させられていた。
この本ではメディア良化特務機関によるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、図書などに対する検閲が厳しく行なわれているが、そういう状況になると自主規制が先にたってくるようになる。現在の日本はこの本のような状況ではないが、人権を守るという名目で使ってはいけない言葉というものがあり、放送局や新聞などはそれに従って自主規制している。
実際に1993年に筒井康隆の「無人警察」が高校教科書に掲載されることになり、てんかん協会から記述が差別的であるとの抗議を受け、自宅には嫌がらせの電話や手紙が殺到し、角川書店は一方的に「無人警察」を削除したという事件があった。
巻末の有川浩さんと先日亡くなられた児玉清さんの対談もなかなか興味深い内容です。例えば自主規制について有川さんは次のように述べています。「いわゆる自主規制を求める人々っていうのは、自分は善意で声を発していると、信じているところがまた恐ろしいです。辞書には差別的な意味合いとかは、全く載っていない言葉なのに」。
それからどういうものを書くかという点については、「少なくとも同時代の人が受け取って、感情移入できるものを書きたいなって言うことはすごく思っています。「今」受け取ってくれる人が楽しんで欲しいっていう。」と述べています。
そしてこれはよく言われているのですが、「やらないで後悔するより、やって後悔したいな」と言っています。色紙とかを頼まれると、いつも「倒れるときは前のめり」と書くそうです。
それと児玉さんは有川さんの本は「漢字が多くて、ひらがなが優先されているという書き方をしていない。そこがね、実は僕、すごく嬉しく思いながら読んでいたんですよ」と褒め、有川さんはそれに対して「日本語の一番強いところって、表音文字と表意文字が組み合わさっているところだと思うんですよ。リズムの面白さと、字を見ただけで意味が分かるっていう実務性、利便性と」。そして児玉さんは「耳で音を聞いた瞬間に、漢字を貼り付けて理解しているわけですよ。これはね神業的なんですよ。それを何で消してしまうのか。なくしてしまおうとするのか。最近は街の名前とか土地の名前、これをひらがなにする所もすごく多いんです。」と最近の風潮を嘆いておられました。
漢字は日本語にはなくてはならない文字だし、読めなくても字を見ただけで意味が分かる非常に便利な文字です。本や新聞がひらがなだらけになったらどれだけ読みにくいことでしょう。
「図書館戦争」 有川浩著 角川文庫 2011年5月25日発行 667円+税