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「福島原発の真実」を読みました(9月7日)

「福島原発の真実」を読みました(9月7日)_d0021786_1639016.jpg前福島県知事の佐藤栄佐久氏の書いた「福島原発の真実」を読みました。
1988年福島県知事に当選し、2006年県発注のダム工事をめぐる汚職事件で県政混乱の責任を取り辞職するまで18年間、知事として原発にどう向き合い、国に対して県として何を要求し、それに対して国はどう応えたのかが事実を中心にうまくまとめられた一冊です。

福島第一原発1号機が運転を始めたのは1971年3月のことでした。その後増設を重ね福島第一では6基の原子炉が稼動していました。また1975年11月には福島第二原発建設が着工され、4基の原子炉が稼動していました。10基の原子炉を抱える福島県は住民の安全を守るためには、あまりにも原発の安全問題から阻害されていることを知ることとなったのは知事就任後の1988年暮れから1989年正月にかけてのトラブルに際し、情報が該当市町村には一番最後にしか届かないという事実を知った時でした。福島原発での事故はまず東京・内幸町の東京電力本社に連絡が行き、そこから通産省(現在の経産省)へ、そして資源エネルギー庁へ、そこから福島県庁へ来て原発のある富岡町と稲葉町に伝えられるというシステムでした。

福島県庁ではそれまで防災課の中に原子力安全対策室というものがありましたが、これでは不十分だとして、専門家を採用し、十数名規模の原子力安全対策課を設置することになりました。

当時福島第一が立地する双葉町議会は新たに7,8号機を誘致するべく、原発増設要望を決議していました。原発立地自治体には巨額の固定資産税が30年間保障される他、電源三法交付金が交付され、立派な市民会ホールや図書館などが建設されました。しかし、当時は電源三法の交付金は公共事業に限定されていたため、ハコモノを作るしかありませんでした(2003年の改正でソフトにも使えるようになった)。そのため原発立地市町村は麻薬中毒患者のように原発で金をもらい、金がなくなったらまた原発を誘致するということを繰り返し、1箇所に多くの原発を建設することになったのでした。

先進各国が撤退した高速増殖炉にいまだにしがみついて多くの税金を投入しているのは日本だけです。その「もんじゅ」もトラブル続きでいまだに稼動の目処は立っていません。もともと「もんじゅ」を作るのは、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを使ってまた発電に使うためでした。青森県六ヶ所村の日本原燃で使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを含んだMOX燃料を作るという計画でした。

ところが「もんじゅ」はいつ本格稼動するのか目処も立たず、全国の原発では使用済み核燃料がどんどん溜まっています。外国からも容易に核兵器に転用できるプルトニウムを大量に保管するのは問題だと批判され、普通の原子炉でMOX燃料を燃やすことにしたのがプルサーマル計画」でした。

福島第一原発にも大量の使用済み核燃料が溜まり、原発建屋内のプールだけでは納まらなくなり、新しく共用プールを建設したいと東電から福島県に了承を求めてきました。佐藤知事は国(通産省の課長)に共用プールに保管した使用済み核燃料はいつから外へ持ち出すのかと聞いたところ、「2010年から使用済み核燃料を持ち出す」と明言していたのにそれは全くのウソでした。この課長はその後異動していて、責任の追及もできないという。

福島県は1998年プルサーマル計画に一旦は事前了解を出すのですが、その後MOX燃料のデータ捏造やJCOの臨界事故などがあり、白紙撤回します。またその頃通産省内では電力自由化論と反自由化論(いわゆる原発推進は)の対立があったが、自由化論者は経産省を追われ、原発推進派が実権を握ります。

その後、東電の事故隠しや検査データの捏造などが発覚し、2003年4月14日、東京電力の原発は全部停止させて安全点検を行なうことになりました。この頃、今と同じように東京で大規模停電が起こる可能性があると大騒ぎをし、運転再開を画策しました。そして、4月25日柏崎刈羽原発3号機を皮切りに運転が再開されました。福島県が福島県民の命を守るために設定した条件は二つ。事故情報を含む透明性の確保と安全に直結する原子力政策に対する地方の権限確保でした。

資源エネルギー庁はプルサーマルの導入を促進するためにMOX燃料を使う場合はウラン燃料を使っている場合の2倍の交付金を出すとか、それまで発電容量ベースで算定していた交付額を発電電力量に応じた算定方式に見直し、プルサーマルの場合はウラン燃料の発電の3倍の額を交付するということを決めました。

浜岡が止まる時、御前崎市長が怒ったのは発電実績がなければ交付金がなくなるためで、その後、実績がなくても交付金は出すと政府が言って一段落したのは、この制度のせいです。

そして2005年経産省と資源エネルギー庁は、国が安全確認をした原発が自治体の意向で運転できない時は地元への電源三法交付金をカットするという方針を決めた。

2006年1月24日、原子力安全委員会は、プルトニウム利用計画は妥当であるという結論を出し、青森県では六ヶ所村でMOX燃料の粉末が精製され始め、佐賀県ではプルサーマルの受け入れを表明することとなった。

県には原発に立ち入り調査をする権限も、原発の運転を止める権限もありません。

佐藤栄佐久さんはこの本の中で次のように言っています。「原子力政策もそうだが、日本の統治機構の最大の問題点は官に都合のいい組織ばかり作られた結果、チェック機能が働かなくなっていることだ。組織内部だけではない。外部からチェックするメディアも機能していないに等しい。」「未来を担う子どもに、原発事故の責任を取らせるわけにいかない。国から何か政策が下りてくるのを待つのではなく、自分の自治体の市民の安全から発想するべきだ。今こそ「国民の命を守る」ことを一番の価値に日本の政治を作り替えなければならない。」

原子力を推進しているのは国(官僚)ですが、その背後にはもっと大きな力が隠れているような気がします。そんな中で県知事として県民の命を守るために国とも対決してきた佐藤氏の熱い思いが伝わってくる一冊でした。

「福島原発の真実」 佐藤栄佐久著 平凡社新書 2011年6月22日発行 740円+税
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by irkutsk | 2011-09-07 16:39 | | Comments(0)