「スピリットベアにふれた島」を読みました(10月12日)
コールの父親は金とコネはあり、守らなければならないのは世間体だった。家庭では酔ってコールに暴力をふるっていた。父親も自分の父親に同じように暴力をふるわれていた。
母親はおびえたバービー人形みたいで、夫の暴力を止めようとせず、いつも見栄えばかりを気にしていた。いつも酔っ払っていて、何もなかったふりをしていた。
少年保護監察官カーヴィーは毎日面会にやって来て、サークル・ジャスティス(魂の救済のための裁判制度)をコールに勧める。コールはそれを申請すれば刑務所に行かなくてもいいということで受け入れる。
小さな無人島で1年間、一人で過ごして自分自身を見つめなおすというものだった。島にはコールのためにトリンギット族の長老エドウィンが建てたちっぽけな小屋があった。
コールを送ってきた人たちが帰ってしまうと、コールはランプ用のガソリンをふりかけて小屋を燃やしてしまう。泳いで島から逃げ出そうとしたが潮の流れに押し戻され断念。翌日潮の流れが変わってからもう一度挑戦することにして、たき火を始めた。
目を覚ますと白いスピリットベアが100mと離れていない波打ち際にいる。不敵な、しかし静かな目でじっとこちらを見ていた。コールは槍にぴったりの若木を見つけて先端を尖らせた。
天気は霧雨から本降りの雨に変わった。二、三日天気の回復を待ちたいところだが、その前にエドウィンたちが様子を見に来るかもしれない。あと3、4時間で満潮だろうというとき、再びスピリットベアが岸辺にいる。
コールはクマに向かっていくが、クマは逃げずにじっと動かないで入る。コールはクマに近づき、3mのところから槍を投げたがクマはそれをはたき落として、コールに襲いかかった。クマは太ももに牙を立て、コールをぼろ人形のように軽々と持ち上げた。コールはナイフを振り回し、クマはナイフで刺されるたびにすさまじい力で脚を噛み砕こうとする。クマはコールを地面に落とし前足で何度か胸の辺りをはらい、そのたびに鋭い爪がコールの胸の肉を切り裂いた。コールは右腕を上げて防ごうとしたが、その腕をクマの歯ががっちりととらえた。前後に激しくゆすぶられる。クマの顔を殴りつけても容赦ない攻撃は続いた。くわえた腕をはなさせようと一か八かで首をつかんだ。ボキッとコールの前腕の骨が折れる音がしてクマはコールを落として唸った。スピリットベアはこれでとどめだといわんばかりに巨大な二本の前足をコールの胸にのせ、グイと押した。コールの肺から空気がたたき出され、肋骨がベキッと鳴った。そしてクマは波打ち際をゆっくりと遠ざかっていった。
右腕は動かない、息もできない、動かせるのは左腕と頭だけ。雨は降りやまず空は灰色の雲におおわれていた。頭上にはトウヒの巨木があり、ふたまたになったところに小さな鳥の巣があった。親鳥が虫やミミズをくわえてひな鳥たちのところへやってくる。稲妻と雷鳴がとどろき、トウヒの巨木が倒れた。倒れたトウヒの巨木を見て、「おまえら、だいじょうぶか?」とひな鳥たちの心配をする。
動けない体で、ミミズやアリ、ネズミを食べ、水たまりの泥水を飲んで生き続けた。
島に様子を見にやってきたエドウィンとカーヴィーに発見され、病院へ。
6ヵ月後、怪我が治り、コールはもう一度島に行きたい、そして今度はそこで1年間自分自身を見つめなおしたい希望し、何とかそれが認められ、再び島へ行くことに。
今度は自分が住むことになる小屋を作ることから自分でやらなければならなかった。そして彼がその島で1年間過ごし、見つけたものは何だったのか。
彼がその島で見つけたものとは。
空、森、動物たち、海、雨、目に映るものすべてがさらに大きな何かの一部に思われた。すべては調和し、互いに結びついているかのように曲がり、流れ、ねじれ、息をしている。
おれが一番傷つけてきたのは、おれ自身だったんだ。人生は意味を見つけないと、空しく、生きる価値がない。
人を助けると、自分の心の傷を癒す助けになることがある。
空、この枝、ホットドッグ、人生、みんな同じだ。受け止め方一つで変わる。目を向けた先にあるものが現実になるんだ。誰もが心に怒りをかかえている。だが、幸せの種も持っている。怒りに目を向けるものは常に腹を立てているだろう。幸せに目を向ける者は――。
お前の人生はふってわいたものじゃない。祖先たちは何代にもわたってお前がしてきたように人生でもがき苦しみ、教訓を学び、まちがいを犯してきた。そして学んだこと、身につけたことを、すべて次の世代へ受け渡してきたのだ。
見えない存在になるには、心を無にしなければならない。
スピリットベアを見るためには心を無にし、見えない存在にならなければならない。姿を消すのではない。意識を消すのだ。
おれという人間は、よくわからないけど、大きな輪の一部なんだ。お前もそうだぜ。生も死も、善も悪もみんなそのサークルの一部だ。お前を傷つけたとき、おれは自分も傷つけた。
サークルはどの部分をとっても始まりであり、終わりでもある。そしてすべてはひとつだ。
「スピリットベアにふれた島」 ベン・マイケルセン著 原田勝訳 鈴木出版
2010年9月15日発行 1,600円+税