「TPP亡国論」を読みました(10月29日)
TPPは昨年10月1日の菅直人前首相の所信表明演説で参加検討が初めて出てきたものです。そして11月中旬のAPEC横浜会議までに交渉参加の是非について政府の判断がなされるような雰囲気でした。しかしその後3月に東日本大震災、福島原発事故が起こり、この問題はしばらく検討されていませんでした。ところがまたぞろ来月のAPECまでに参加の是非について最終判断を下すという方針が出され、各界の反発を招いています。
そもそもTPPとは何なのか。2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国でスタートしたもので、物品の貿易の関税は原則として全品、即時、または段階的に撤廃するという急進的なものでした。また貿易だけではなくサービス貿易、政府調達、知的財産、金融、人の移動なども含まれています。2010年3月にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムの参加し、交渉が開始しました。また2010年10月にはマレーシアも参加しました。
もともと自由貿易協定を目指す組織としてはWTO(世界貿易機関)がありましたが、多国間の交渉なので、難航し、しばしば決裂していました。そこでFTA(自由貿易協定)という2国間、あるいは複数国間の協定を結ぶようになりました。ここでは10年以内に90%の品目で関税を撤廃しようしています。
他にもEPA(経済連携協定)もあり、FTAに出遅れたといわれている日本が進めているFTAの一種です。相手国との柔軟な交渉によってルールを作っています。日本はシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、スイス、インド、AEANとEPAを結んでいます。
にもかかわらず、どうして今、非常に急進的なTPPに参加しようとするのか。現在TPPに参加している国+日本のGDP比率はアメリカ67.2%、日本24.1パーセント、オーストラリア4.4%、その他4.3%で、実質的には日米FTAです。
日本の関税は決して高くなく、TPPに参加して「国を開きます」と宣言すれば、非関税障壁の撤廃を求められることになりかねません。つまり社会的規制(労働規制、保険制度、医療制度など)、安全規制(食品安全)、取引慣行、言語、文化などをアメリカのやり方に合わせるように要求されることも予想されます。
世界大不況の現在、世界市場が縮小しており、各国とも需要に飢えています。そこで太った鴨がねぎを背負ってやってくるのを待っているのです。今回のTPPはアメリカの経済浮揚と失業率の減少のための貿易協定なのです。
また著者の中野氏は世界経済危機の中で、日本の経済をどう立て直すべきかについても意見を述べています。グローバル化した世界では国内市場を保護するための最も強力な手段は関税ではなく通貨だといっています。ドル安で日本の製造業は海外に工場を移し現地生産を行なっています。日本の自動車は6割以上が現地生産です。関税を低くしたところで輸出はそれほど伸びません。日本のGDPに占める輸出の割合は2割にも満たないのです。
今の日本はデフレを克服することが一番の課題です。デフレで商品価格が下落→企業利益減→労働者賃金の切り下げ→消費減少→商品価格下落という負のスパイラルに陥ることになります。こういうデフレの時に貿易自由化をすると、安価な外国製品が流入し物価が下落し、農業の崩壊により失業率が上がり、消費が減少します。
デフレを克服するためには内需を拡大しなければなりません。しかしデフレの下では民間企業にはその力がありません。政府がやるしかないのです。公共投資をどんどんやって景気を回復させ正のスパイラル(消費増→生産増→賃金増→消費増)に転換させなければなりません。そして長期金利の上昇、物価の上昇、人手不足が始まれば財政出動をストップすればいいのです。
復興増税が取りざたされていますが、さんざん搾り取った国民から、さらに搾り取ろうとすると消費が減少し、増税したつもりが税収は増えず、国民の生活がさらに苦しくなるという結果に終わります。デフレの解決には需要を喚起しなければならないのに、今の政府がやろうとしていることは全く正反対で、需要を減少させることです。ますますデフレが深刻になり、日本経済はいつまでたっても回復できなくなります。
TPP問題だけでなく、日本経済についてもよくわかる本でした。
「TPP亡国論」 中野剛志著 文春新書 2011年3月22日発行 760円+税