「原発・放射能 子どもが危ない」を読みました(10月31日)
「これから10年後、20年後、福島の子どもたちには、ガンが多発する可能性があります。それは犠牲にならなくてもすんだはずの子どもたちなのです。」
政府は「直ちに健康に影響を及ぼすことはない」と何回も何回も繰り返していますが、この言葉の裏には上記のような危険をはらんでいるということがあります。
現在朝日新聞3面に「プロメテウスの火」という連載記事が掲載されていますが、その中で、事故直後にスピーディ(放射能影響予測システム)が高濃度に汚染される地域をかなり正確に予想していたにもかかわらず、避難指示はなぜか同心円状に指定され、高濃度に汚染されることが予想された風下の地区に住む住民や子どもたちは避難せずに被曝してしまったということが書かれています。
この本は京大准教授の小出裕章さんと小児科医でチェルノブイリ子ども基金の顧問でもある黒部信一さんが書かれた本です。
原発を推進する人たちは「しきい値」と呼ばれる健康に影響が出る最低限の被曝量を設定し、それ以下の低線量被曝は害がないと言っている。しかし米科学アカデミー委員会では被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はないと言っています。
低線量被曝の場合は「広く浅く影響が出る」のではなく、宝くじのように何十万人かに一人1億円が当たるのと同じように、当たった人がガンになるというものです。
また放射線被曝で怖いのは内部被曝だといっています。その影響はガンだけではなく、すぐに疲れる、貧血になりやすい、ホルモン系のバランスが崩れる、筋肉骨格系でも脳神経系でも影響が現れます。
また最近除染がよくマスコミで取り上げられていますが、「放射能は燃やそうが、浄化しようが、増えもしないかわりに決して減りもしない、燃やせばゴミの量は減るが、放射能はそこにきっちり同じだけ残っている。ただ濃度が高くなっただけ」と小出さんは言っています。
「2011年3月11日以後、私たちは日常的な被曝を覚悟しながら生きていくしかない。食品についてもどこかの基準を超えたら危険で、下回っていれば安全などという基準は存在しない」と言っています。そして放射能が避けられない今となっては、私たちは汚染食品を食べないということではなく、誰がそれを引き受けるかです。放射能に対する感受性が強い子どもたちにはより低いものを食べさせ、感受性の弱い老人がより高いものを引き受けるしかないのです。そのためには汚染度を正しく表示することが必要です。
この本の中で一番驚いたのは「放射能に耐える不気味な生き物」がいるということでした。「1979年の米スリーマイル島の原発事故の収束後、溶けた炉心の入った圧力容器を開けた作業員はモニターを見てびっくり。うごめく物体によって炉心の中が見えない。高線量の中で動いていたのは生物でした。単細胞の微生物からバクテリア、菌類、さらに藻類までもが炉心の中で大量に増殖していたのです。殺菌剤(過酸化水素)を投入しても、いつの間にか復活し、増殖を始めていました。」
小出さんは国や原発は麻薬の売人だと厳しく批判しています。財政的に苦しい自治体に原発誘致の話を持ちかける→自治体は受け入れ交付金や固定資産税で潤う→減価償却により交付金や固定資産税が減ってくる→自治体側から次の原発の誘致を要求→同じところに次々に原発が集中的に作られていくという悪循環を繰り返すことになり、原発依存から抜けられなくなるのです。
国は事故を小さく見せかけるために、住民を被曝させることを選択し、東電は必要のなかった計画停電を行い、原発が無いと電気が足りなくなるというキャンペーンを行なったのでした。3・11以後、世界は変わってしまいました。今、一番大事なのは何の責任もない子どもたちを守らなければならないということだと思います。
「原発・放射能 子どもが危ない」 小出裕章、黒部信一著 文春新書 2011年9月20日発行 760円+税