「プーチン最後の聖戦」を読みました(4月10日)
「はじめに」のところで、1990年代、アメリカは「この世の春」を謳歌していたといっています。ソ連が崩壊し、日本はバブルがはじけ暗黒の20年に突入、欧州は貧しい東欧を救済する羽目になり、中国はまだ弱小国家だった。
ところが欧州はソ連崩壊後、アメリカにわたっていた覇権を取り戻そうとEUをつくり、ユーロを誕生させアメリカに対抗してきます。またイラクのフセインが2000年9月14日「石油代金として今後いっさいドルを受け取らない」と宣言します。ユーロで決済すると言い出したのです。フセインはこれでアメリカの怒りを買い、失脚、処刑されてしまったのです。大量破壊兵器などはなく、単なる口実であったことは後に明らかになりました。
どうしてアメリカは決済通貨をドルからユーロに変えることにこれほど憤るのでしょうか。それは現在ドルが基軸通貨として世界で使われていますが、その地位を脅かすことになるからです。では基軸通貨とはどんなものなのでしょうか。
アメリカは世界最大の「財政赤字国」「貿易赤字国」「対外債務国」です。財政赤字は1963年から現在まで50年近く続いています。(1998年から4年間は例外的に黒字を達成)
普通の国であればとっくに財政破綻しているところですが、アメリカはいっこうに破産しない。それは一つには高金利、アメリカ国債、株などでドルが還流しているからです。もう一つはドルが基軸通貨だからです。基軸通貨というのは国際間の資本・貿易取引において、民間・公的部門を問わず幅広く使用されている決済通貨のことです。
普通、貿易赤字の国では、自国通貨の需要が外貨需要よりも少なくどんどん下がっていきます。しかし、基軸通貨ドルの需要は世界中にあるので、なかなか下がりにくいのです。ではそんな需要があるのでしょう。●アメリカと他国の貿易決済通貨として●他国と他国の貿易決済通貨として●外貨準備として●世界中の民間人がドルを保有している。
だからアメリカは外国から物を買うのに外貨を稼ぐことはないのです。この基軸通貨は国際法で決められているわけではなく、基本的には強制力がありません。ただアメリカが経済力も軍事力もNo.1で、信用度が一番なので、ドルが基軸通貨として使われているだけです。
だからドルを基軸通貨の地位から引きずり下ろせばいい。そのためにはドルの使用量を減らし、他の通貨で決済するようにしてしまえばいい。だからフセインは決済通貨をユーロにしたためにアメリカの怒りを買ったわけです。
政治的にはアメリカ一極支配を維持しようと、ドルの基軸通貨の地位を脅かすものには鉄槌をくわえるのです。
アメリカはアフガニスタン、イラクに続いてロシアの石油利権も支配しようとしていました。ロシアの石油最大手ユコスを買収しようとしたのです。これに対し、2003年プーチンはユコスのCEOホドルコフスキーを脱税容疑で逮捕し、アメリカによるユコス買収は失敗しました。これに怒ったアメリカは2003年11月グルジアでバラ革命を起こし、傀儡政権を樹立します、さらにウクライナでオレンジ革命を、キルギスでチューリップ革命を起こしていきます。
ロシアは一国ではアメリカに対抗できないとして、プーチンは中国との同盟に踏み切ったのでした。北野氏はこの同盟をアメリカ幕府打倒で手を結んだ「薩長同盟」だといっています。そして反米の砦として上海協力機構を発足させました。中国、ロシア、中央アジア4カ国でスタートしましたが、その後イラン、インド、パキスタン、モンゴルが参加します。さらにトルクメニスタンやトルコも加盟を申請しています。
そしてロシア・中国は両国の貿易決済をルーブルと人民元で行なうと決め、ロシアは他国との決済にルーブルを使うと言い、湾岸協力会議や南米共同体、東アフリカ共同体も共通通貨の発行を目指しています。
2008年のリーマンショックでアメリカの一極支配は終焉したといえます。一極世界のあとは多極世界へ。G8はG20へ。
しかしプーチンは2008年、大統領の地位をメドベージェフに譲ります。なぜ彼を後継者にしたか。それは彼のバックにプーチン以外に誰もいないからでした。すなはちプーチンに反逆することは即失脚を意味するからです。とは言うものの、彼は欧米の本当の恐ろしさを知らず、リビアに対する多国籍軍による武力攻撃に拒否権を使わずに棄権しました。この頃からプーチンとメドベージェフの間はしっくりいかなくなり、メドベージェフは次期大統領選出馬に意欲を見せたりしました。しかし、いかんせん彼の基盤は弱く、プーチンに対抗することはできませんでした。
そして2012年の選挙でプーチンは大統領に当選し、再び5年間ロシアの最高権力者となることになりました。このことに一番危機感を抱いているのはアメリカでしょう。プーチンはアメリカにとどめを刺すために次のようなことを行なうであろうと北野氏は書いています。
1、アメリカをさらに没落させる
アメリカはいまだに強力で、依然としてロシアの脅威であり続けています。
2、「ドル体制」をさらに崩壊させ、ルーブルを基軸通貨化させていく
3、中ロ同盟の再強化を目指す
4、上海協力機構の再強化を目指す
5、「ブリックス」諸国との連携を深める
6、「ユーラシア経済同盟」をつくる
そして最後に近い将来、ドル暴落とインフレがアメリカを襲うといっています(2015年~2020年がアメリカにとって最も厳しい期間となる)。
ロシアもアメリカのさらなる没落に伴う危機を避けるのは不可能ですから、プーチンはこれからせっせと外貨保有高を増やし、危機の悲劇をやわらげる準備をしていくでしょう。
ではアメリカの没落後中国が覇権を握るのかというと、中国の繁栄もあっさりと終演を迎えると予測しています。中国の国家ライフサイクルを見ると、2010年代は成長期後半に当たり、2018~2020年ごろに日本のバブル崩壊に相当する出来事が起こるでしょうと指摘しています。
そして日本はどうするのか。アメリカが日本を守れなくなる日がやってきたとき、中国に擦り寄るのか、独立国家となるのか。
北野氏がこの本を書いた意図は「世界がまだ戦国時代である」ことをみなさんに知ってほしかったからだ。日本は覚醒しなければならない時がきたのだということに気づいて欲しくてこの本を書いたということです。
日本の総理大臣を見ていると、いまだにアメリカの番頭ばかりで真に日本のことを考えているとはとても思えません。彼らにもこの本を読ませて、一国の指導者としての自覚を促したいものです。