人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ロシアとMacと日本語 irkutsk.exblog.jp

関心のあるいろんなこと書きます


by irkutsk
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

「ワイルド・ソウル」を読みました(7月25日)

「ワイルド・ソウル」を読みました(7月25日)_d0021786_1651471.jpg7月9日に第1章「アマゾン牢人」を読み終えたところで「『ワイルド・ソウル』を読んでいます」を書きましたが、ようやく上・下を読み終えました。

第2章からは話は小泉が首相をしている時代に移ります。ストーリーの中の人物も衛藤本人よりも彼がクロノイテの入植地に戻って見つけた友人野口の忘れ形見であるケイイチと同じ入植地にいた松尾夫妻の息子ノブ、そして衛藤とシェラ・ペラーダで砂金を採っていた山本の3人による日本政府への復讐が始まります。

ノブは両親とコロンビアへ脱出しようと船に乗って川を航行している途中で海賊に襲われ、両親を殺され、彼自身も川へ飛び込んで逃げ、九死に一生を得たのでした。そしてジャングルの中をさ迷い歩いているうちに麻薬密売組織のボスの家に行き着き、空腹から忍び込んで料理を盗み食いしているところを発見され、捕まえられます。でも幸いなことにボスのドン・バルガスに見込まれ、将来の幹部候補生として教育され、大学まで出してもらいます。そして麻薬密売組織の元締めとして日本に送り込まれたのでした。表の顔は貴金属店の支配人として。

さてケイイチ、ノブ、山本の3人が行なった日本政府への復讐とは。
7月10日午前4時、外務省仮庁舎の屋上から政府の移民政策に対する復讐の言葉が書かれた垂れ幕をたらすこと。それにはこう書かれていた。
「この豚野郎 女衒野郎
 四十年前におまえらに騙されて死んだ人間を思い知れ
 街娼や乞食にまで落ちぶれた日本人のことを思い出せ
犬同然に扱われた四万の民の苦しみを知れ
その借りは、今から返してもらう」

「ワイルド・ソウル」を読みました(7月25日)_d0021786_1653431.jpgそしてビルの前の高速道路上からマシンガンでビルの外務省が入っている部分の窓ガラスをすべて撃ち抜いた。人のいるフロアは除いて撃ったので、死傷者は0。マスコミに犯行予告を出しておいたので、この状況はテレビ中継されることになった。

復讐の第2弾は3人の移民関係者を拉致、監禁して、彼らの解放条件として政府に首相・外相による声明文発表と共同会見を行なうことを要求した。声明文は「戦後の中南米移民政策は、当時の外務省ならびに政府に明らかにその責があります。先人たちの無能と無責任さが引き起こした結果です。謹んで、ここに追悼の意とお詫びを申し上げます」という文面だった。

拉致された3名はまず、1958年から1964年までベレン領事館勤務、1961年からは総領事という経歴の山口誠一郎。彼の罪歴はブラジル政府が行なった日本人入植者からのパスポート没収の承認、入植者からの多数の訴えの黙殺、外務省への連絡不履行。各入植地における生活データの意図的な改ざん、各入植地への視察の不履行、ベレン入港時点での移民者への入植地・現状説明責任の放棄。

二人目は1959年から1963年の間、元・映像製作会社社長として南米移民募集用の映像製作にたずさわっていた渡辺憲次。彼の罪歴は移民募集用・現地映像の偽造。結果としての詐欺行為。

三人目は1959年から1968年まで在ベレン「アマゾナス産業(株)」専務の大野孝則で彼の罪状は移民者からの一時預かり金の流用、その預かり金の返還不履行、日本からの移民者宛送金の着服。

果たして彼らの計画は成功するのか。日本政府は公式に謝罪するのか。そして3人はブラジルやコロンビアへ帰れるのか。

この作品は第六回大藪晴彦賞、第二十五回吉川英治文学新人賞、第五十七回日本推理作家協会賞の3つの賞を受賞しました。

事実に基づいている物語だけに、心を揺さぶられるものがありました。また復讐が成功するのか、彼らは日本から脱出できるのか、はらはらドキドキのれんぞくで後半は一気に読み終えました。

「ワイルド・ソウル」(上・下) 垣根涼介著 幻冬舎文庫 2006年4月15日発行 各686円+税
名前
URL
削除用パスワード
by irkutsk | 2012-07-25 16:06 | | Comments(0)