人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ロシアとMacと日本語 irkutsk.exblog.jp

関心のあるいろんなこと書きます


by irkutsk
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

「快感回路」を読みました(7月29日)

「快感回路」を読みました(7月29日)_d0021786_8542790.jpg人が快感を感じるメカニズムを化学的に解明した一冊です。今まで人の意志の弱さと思われていたものが病気であることや、遺伝であることなどが詳しく書かれた面白い本です。「第3章 もっと食べたい」の一部を紹介します。
******************
進化の過程を通じて人類が無制限に食物を得られたことなどほとんどなかった。進化の歴史の大半の時期、私たちは狩猟採集社会に属し、日々の労働に大量に熱量を消費してきた。人類が体重(そして食欲)を最適レベルにセットする生物学的コントロールシステムを持っているというのは理に適っている。体重が減りすぎても、次に飢饉が長引いたときに餓死する危険性が高くなる。逆に体重が多すぎると動きやすさに支障が出る。
つまり、現代の体重を大幅に落としてそれを維持しようとするとき、その努力は、数百万年積み重ねられてきた進化の選択圧に抗うことにほかならないのだ。

肥満しやすいラットは中脳の快感回路におけるドーパミン信号が弱く、一定のドーパミンレベルを達成するために、より多く食べようとする。このような性質は生まれつきのものであると考えられる。大半の文化圏では、食べ過ぎと肥満は意志の力が弱いせいだとされている。しかし、遺伝学的には、その考え方に強力な反証がある。研究データが示すところによると、体重の軽重は、80%遺伝的に決まっている。この比率は身長などの身体的特性の遺伝性と同じで、乳がんや統合失調症や心臓病といった、現在では遺伝的要因があることが明らかだとみなされる病気における遺伝性よりもはるかに高い。

外食産業の戦略
BMIの80%は遺伝的なものでだが、個人の体重を決める要因としては、環境や、遺伝/環境の相互作用も大きな役割を果たしている。アメリカ人の平均体重は1960年から現在までの間に12キロほど増えている。これが遺伝的な変化のせいでないことは明らかだ。主な原因は外食産業が協調して人々の快感回路を最大限に活性化する飲食物を生産し、大量に提供する努力を続けてきたことにある。その結果アメリカ人の食べすぎが促進された。

私たちの祖先の食事はさまざまな居住環境に暮らしたさまざまな集団ごとに違いがあったはずだが、共通する特徴があった。それは大半が植物性の食物だったということだ。脂肪(おそらく全カロリーの10%ほど)と糖(たいていは熟した果物と蜂蜜)はごくわずかだった。肉はごく稀にしか食べられないご馳走で、手に入ったとしても通常は脂身のないものだった。内陸の住人にとって塩は未知の味だった。すばやく噛み切って飲み込めるような水分や油分の多い食べ物はほとんどなかった。最も重要な点は、時おり飢饉が起こるのが当たり前という場所が多かったことだ。そのため脂肪や糖を含む高カロリー食が手に入ったときはむさぼり食い、予測される困難な時期のために体脂肪として蓄えておくことは理に適っていた。

こうした祖先の食事の結果、私たちは生まれつき特定の味や匂いを好むよう身体ができあがっている。塩もそうなのだ。人間もラットも、脂肪と糖が豊富な高カロリー食を食べるとVTAが大きく活性化し、VTAの標的領域にドーパミンが大量に放出される。興味深いことに、脂肪と糖は同時に摂ると極端に依存性が高くなり、それぞれの片方だけを摂る場合よりはるかに大きな影響が快感回路に生じる。

テストキッチンのシェフは人が食べ過ぎたがる商品を考案する。ポテトチップには肉やスープよりも多くの塩分が求められる。甘さが非常に強い食べ物は、脂肪と組み合わせるほうが好まれる。味の対比がでる組み合わせも食べすぎを誘発しやすい。チョコレートが載り、フルーツのカケラが混ざっているアイスクリームのほうが一つの味の均一なアイスクリームよりも訴えるものがある。スパイシーな唐揚げは、味の違うソースと塩味、スパイシーと塩味はいずれもうまくいく。舌触りの対比も効果が大きい。揚げ物では衣がカリカリ、中がふんわりという対比が基本となることが多い脂分を熱したときの味と匂いも強い反応を引き起こす。

さらにテストキッチンのシェフは噛んだり飲み込んだりするのが楽な食品のほうが好まれることも知っている。そのためファミレス・チェーンで出てくる肉は機械的に柔らかくされており、マリネの漬け汁が注入されていることが多い。口の中でとろけ、水分が多いため、するりと飲み込める。つまり、客が噛んだり飲み込んだりする作業の半分を食品工場が肩代わりしているため、たくさん食べられると言うわけだ。

最後に、ごく単純な戦略として、客は皿に載っているものを最後まで食べようとするという事実を利用する方法がある。身体のコントロールシステムを打ち負かして過食させ、食品をたくさん売るには、サイズを大きくするというのがシンプルで効果的な方法なのだ。
*****************************

目次
第1章 快感ボタンを押し続けるネズミ
第2章 やめられない薬
第3章 もっと食べたい
第4章 性的な脳
第5章 ギャンブル依存症
第6章 悪徳ばかりが快感ではない
第7章 快感の未来

「快感回路-なぜ気持がいいのか、なぜやめられないのか」 デイヴィッド・J・リンデン著 岩坂彰訳 河出書房新社 2012年1月30日発行 1900円+税
名前
URL
削除用パスワード
by irkutsk | 2012-07-29 08:52 | | Comments(0)