吉本隆明の「戦争と平和」を読みました(8月28日)
吉本隆明は難解で有名な思想家ですが、彼の講演にしてはわかりやすい話です。彼は国民主権を徹底させるために、リコール権を憲法の中に書き込むことが必要だと言っています。政府が戦争をしようとしたら国民は政府をリコールして戦争を防止することができると言っています。果たしてそうでしょうか? 情報をうまく統制すれば国民を戦争へと駆り立てる雰囲気作りを作り出せるのではないか。そうなれば国民の意思で戦争へと突っ走ることになることはないのでしょうか。とはいえ吉本の言うリコール権が戦争を防止する有効な手段であるということは間違いないと思います。
次に平和について「基本的にいいますと、個々の人の日常生活の繰り返しで、個々の人の主観といいますか、それぞれの考え方の中で、これが保てていたら自分にとって平和だというものがあって、その”平和“というものを大切にする以外に平和についての一般的な考え方というのは、僕はないだろうとおもいます。」(吉本隆明「戦争と平和」p25-26)と言っています。
平和というものは個人個人の心の中にあるもので、万民にとってこれが平和だというものはないということのようです。この意見には私も賛成です。吉本はトルストイが「戦争と平和」の中で、戦闘で負傷して仰向けに倒れて空を見ているアンドレイ公爵が、その空の深く青くて静かな空の深さの中に平和を感じているということを書いています。日常の何気ない風景が見る人によってはたまらなく愛おしいものに感じられ、そのときその人はその風景に平和を感じているということができるのではないでしょうか。
また死というものについては、トルストイは「戦争と平和」の中でアンドレイ公爵が死の間際に考えた死というものの考え方について次のように言っています「死というものは生から目覚めることだ。そういう目覚めたところで今まで何かに制約されていたような感じというものが全部取っ払われて解放されたという感じになる」(吉本隆明「戦争と平和」p28)。
死というものに対する私の考え方も同じようなものです。人間は生まれてきたときからさまざまな制約に囲まれています。時間、空間、他者の心がわからない、欲望などなど。それらの制約の中でいかに自分の心を平和な状態、幸せな状態に保っていくか、日々努めるしかないのでしょう。しかしさまざまな制約に囲まれて入るけれども、人生は辛く苦しいものではなく自分の心の持ちよう次第では楽しく幸せな人生を送ることもできます。いずれにしても死が人間をさまざまな制約から解放し、いわゆる天国と言われている状態に誰もが入ることになると私は思っています。
まだ一度読んだ限りではなかなか十分な理解はできません。彼の思想はすばらしいと思うのですが、それをみんなにうまく、わかりやすく伝えるという術を彼は残念ながらもっていなかったと思います。たくさんいる彼の思想の理解者の中にはそれができる人がいるのではないかと期待しています。
薄くて、すぐに読める文庫本ですが、中身はかなり濃いものがいっぱい詰まっていると思います。二度、三度と読み返す価値のある本です。
「戦争と平和」 吉本隆明著 文芸社文庫 2011年2月15日発行 540円+税