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「母さんのコロッケ」を読みました(9月22日)

「母さんのコロッケ」を読みました(9月22日)_d0021786_22105459.jpg「母さんのコロッケ-懸命に命をつなぐ、ひとつの家族の物語」を読みました。主人公の秀平は半年ほど前に18年間勤務した大手の自動車会社を辞め、子どもたちに本当の生きる力を育てる塾を作った。家族は妻の涼子と長女の寛奈。涼子は2人目の子を妊娠していて、出産のために夫の実家に行くことに。

そしてひとりになった秀平は不思議な体験をする。ある日、出勤途中で咳が止まらなくなり、駅のコンビニに入る。そこでは和服を着た女性が店員だった。のど飴の棚にはいつもいろんな種類のあめが並んでいるのに、その日に限ってほとんど空になっていた。ひとつだけ「ルーツキャンディ」というのが残っていた。「これってのど飴ですか」と聞くと、店員は「それを舐めればその咳は、ぴたりと止みますよ」と答えたのでそれを買う。そして電車に乗ってその飴を舐めているといつの間にか眠り込んでしまった。

そしてその時に見た夢は、昭和20年7月の清津から平壌へ戻る列車の中だった。秀平の祖父・義雄と祖母・浪江がまだ若く、家族を何とか日本へ帰そうと清津まで行ったが、結局船は出ず、また平壌へ戻る途中だった。13歳の正一、理津子、5歳の千鶴子(秀平の母)、そして俊子を連れていた。祖母の浪江は妊娠7ヶ月だった。平壌に戻ってまもなく浪江は産気づき産婆を呼びにやったが、母子共に命を落としてしまった。更に追い討ちをかけるように日本が敗戦し、ソ連軍が侵攻してくる。義雄は子どもたちを連れて何とか日本へ帰ってきたのだった。

やがてこの不思議な夢を見るのは「ルーツキャンディ」を食べた後だということに気づく。6粒入りの「ルーツキャンディ」を食べるごとに、自分の祖父、母、父の過去の夢を見るのだった。

そして最後の一粒を舐めるのは、妻の涼子が急に産気づき入院したという連絡を受けて駆けつける新幹線の中でだった。秀平の父方の祖父・義雄と母方の祖父・英司、そしてこれから生まれてこようとしている秀平の息子が現れてきて、いろいろと彼にこれから生きていくうえでの助言を与えるのだった。

彼らの助言は次のようなものだった。「人間は人が喜ぶ姿を見て自分も幸せを感じることができる。今の時代の人たちが私たちの時代を見ると、とても悲惨で暗い時代のように思うかもしれない。しかし、わたしたちは今の人たちが想像する以上に、幸せな瞬間をたくさん経験した」、「今の子供たちは、自分の欲しいものを手に入れ続けるのが幸せだと教えられて育つ。しかし、その先に待っているものは幸せではない。なぜなら、人間は自分が誰かから必要とされていると感じて初めて幸せを感じることができる存在だからだ」、「ということは、人間は誰かのために生きたときにしか発揮できない力が内に秘められているということでもある」、「すべては出会いによって実現されていく。自分が何をするかよりも、誰と出会うかだ」、「人の前にあるのは永遠に続く今だけじゃ。だったらそのことを喜んで今を楽しんでいいはずじゃが、多くの者はそうしない。相変わらず、今という時間を、未来を不安に思うことに使っている。明日死んだらどうしようと心配して、生きている今を楽しもうとしていないまま、何十年も生きているようなもんじゃ」。

生きていくということについて考えさせられるいい本でした。

「母さんのコロッケ」 喜多川泰著 大和書房 2011年9月20日発行 1400円+税
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by irkutsk | 2012-09-22 22:10 | | Comments(0)