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「孤舟」を読みました(12月2日)

「孤舟」を読みました(12月2日)_d0021786_955156.jpg渡辺淳一の「孤舟」を読みました。先日読んだ藤原和博の「坂の上の坂」の中で紹介されていた本です。

一流会社の役員をしていた主人公威一郎は定年を迎え、会社が斡旋してくれた再就職先に不満があり、それを拒否して定年後はうちで好きなことをやろう、妻を旅行にも連れて行ってやろうなどとバラ色の夢を抱いていた。

半年か一年体をゆっくりと休め、これまで読めなかった本を読み、映画や演劇にも行きたい、学生時代学んだフランス語もやり直したい、囲碁も今は二段だがみっちり勉強して五段くらいになりたいと思っていた。

ところが現実は想像とは全く違っていた。毎朝起きても何もやることがないのである。何もやることがない自由が苦痛になってきたのは半年くらいたったころである。朝から晩までうちにいると妻が喜ぶと思っていたが、それが大きな誤算だった。妻は自分の世界を持っており、その中で生活していたのに、夫の定年によりそれが壊され、ストレスを抱え込むことに。三度三度夫の食事を作り、出かけるときは夫に「どこへ行く?何時に帰る?」と聞かれる。

威一郎はデパートめぐりをしたり、カルチャークラブに行ってみたり、碁会所を覗いたり、再就職先を探したり。しかし、大企業の役員をやっていたというプライドが邪魔をしていずれもうまくいかない。

そのうち娘がうちを出、妻も娘のところへ行ってしまう。犬と二人残された威一郎は慣れない家事をやらざるを得なくなる。そして彼はインターネットを見ていて、有料の出会い系サイトを見つけそこに登録する。そして入会金5万円を払い、1回のデートごとに2万円を払う。そのサイトで紹介してもらった27歳のOL小西佐智恵とホテルのレストランで一緒に食事をする。彼女がすっかり気に入り、うちへも招待し、夕食を作ってもらって一緒に食事をし、片付けまでやってもらう。そして彼女と京都へ一緒に旅行したいと目論む威一郎だった。今夜こそその話を持ち出し、彼女の了解を取り付けようと意気込んでいた夕方、突然妻が帰ってくる。

あわてて小西佐智恵に電話をかける。もう駅まで来ているという佐智恵に今日は急にお通夜に行かなければならなくなったからとうそをついて帰ってもらう。妻は帰ってきて台所の食器の置き場所が変わっているのを見つけて誰かほかの人が台所を使ったのを感づき問い詰められる。

定年後の男の身の振り方について警鐘を鳴らす一冊でした。妻はもうすでにしっかりと妻の世界を持っており、その中に自分が入り込むスペースはそれほどないということを理解し、定年後の自分の世界を設計していかないとこの小説の主人公のようになってしまうと思いしらされました。

定年後、体と心の健康に気を付けて、誰かのために何かをやれる幸せを大切にしていきたいと思いました。

「孤舟」 渡辺淳一 集英社 2010年9月10日 1600円+税
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by irkutsk | 2012-12-02 09:05 | | Comments(0)