「看護の力」を読みました(3月14日)
60年以上看護師をしてきた川嶋さんの言いたいことは、「本来の看護の仕事は人間誰もが持っている、自然に治る力を引き出すことにあるのです」ということだと思います。
本書は五つの章からなっており、第一章「看護という営み」では、看護の起源、職業としての看護師の確立とその歴史が書かれています。現在の効率化、市場原理に振り回されている看護現場を次のように批判し、提言しています。
「どんなに技術が進歩しても、人間の営み自体は非効率であり、一見無駄と思われることに人間らしさが具現されることを思えば、高齢者や病人の時間の流れに添った医療や看護のあり方を真剣に考慮すべきではなないでしょうか。機械に振り回され市場原理に走る医療経営ではなく、人間らしいケアの可能な医療現場を目指して、看護師自身も“自己犠牲を伴わない献身こそ真の奉仕”(ナイチンゲール)との言葉を反芻しながら、本気で専門職にふさわしい働く条件を整える努力が必要です。」
看護師不足が叫ばれている中、看護師の資格を持っていながら働いていない人の数は60万人にものぼっています。これは働く意思があるのに、条件が厳し過ぎて職場復帰できない看護師がいかに多いかという現実を物語っています。
第二章「看護の意味」では、人間が人間として生きていく上で欠かせない営みについて書かれています。「息をする」、「食べる」、「動く」、「眠る」、「トイレに行く」、「からだをきれいにする」、「休息する」など、それが欠けると健康を脅かし、時としていのちにまで影響します。他にも「身だしなみを整える」、「コミュニケーションを図る」、「学習をする」、「趣味の活動やレクリエーションを行う」、「誰かの役に立つ」などの人間に特有な営みについて看護師の観点から書かれています。
第三章「看護の原点」では「食べる」ことの重要性、特に口から食べることの重要性について書かれています。またベッド上でもさっぱりとできるように代用入浴(全身清拭)をすることによって、苦痛の緩和が図れたり、食欲を引き出したり、免疫力を高めるうえでも効果があるそうです。そして「下の世話」の問題についても次のように言っています。
「排泄は生きている以上当然な営みであるが、といってそれが快適な仕事ではない。その世話の過程での言葉が患者さんを傷つけることもある。看護師のさりげない会話やユーモアで和らげることもできる。」
第四章「看護の可能性」では、治る力を引き出す方法のいくつかの試みが紹介されています。「人間のからだのなかには、自分で治る力が潜んでいるのです。それを発揮できるように手助けするのが看護の専門性である」と言っています。寝たきり高齢者を減らすためには、開放した座位姿勢の保存が有効で、そのような器具「すわろう君」も紹介されています。他にもうつぶせ寝の効用や足浴、手浴の効用、音楽療法、楽しい思い出記憶を手がかりにした認知症緩和ケア、「床ずれ」の予防について具体的な例を挙げながらわかりやすく説明しています。
第五章「看護師60年」では川嶋さんが看護して過ごしてきた60年のあいだに経験してきたことが書かれています。
看護という仕事について、非常にわかりやすく書かれていて、とても勉強になりました。
「看護の力」 川嶋みどり著 岩波新書1391 2012年10月19日発行 720円+税