「夢の守り人」を読みました(4月8日)
女用心棒のバルサは新ヨゴ皇国へ戻ってくる。そこで沢の方から滑る岩の上を、おぼつかない足取りで必死に逃げてくる男の姿を見つける。その後ろを三人の男が追っている。バルサは追っ手が奴隷狩人だと見ると、逃げている男を助けることにする。助けられた男はユグノという名前の放浪の歌い手だという。助けてくれたお礼にとユグノはバルサに歌を歌ってくれる。「その歌声は風よりも軽く、さざ波よりも繊細に大気をゆらした。糸が織りあわされるように、声と声とが響きあい、響きが響きを織り…バルサは全身が波にゆすられ、泡立っていくような――意識さえも泡立っていくような、たまらない感覚にとらわれていた。体と心をかたちづくっているものの、一つ一つが、歌声に共鳴して、ふるえ湧き上がるよろこびが、渦を巻いて天にのぼり…消えていった。」
バルサの幼なじみで新ヨゴ皇国に住む薬草師のタンダは、兄に「娘のカヤが眠ったまま目覚めなくなってしまったので見て欲しい」と頼まれて見に行くが、命はあったが、カヤの中には<魂>がなかった。タンダは師である最高の呪術師トロガイに相談する。「人の中には、ふだんは目に見えぬ糸で結ばれている<生命>と<魂>とがある。<生命>は、人が死ぬと別の生き物の胎内に宿って新たな魂とむすびつき、永遠にこの世をめぐっていく。<魂>は、さまざまなことを思い考える<心>で、夢を見るのもこの<魂>だ。人が死ぬと、<生命>と結ばれていた糸が切れて<魂>は、一度あの世へと吸いこまれ、前世のすべてを忘れてから、新たな<魂>となってこの世へ生まれ出てくる。」と教えられる。
そして、カヤだけでなく新ヨゴ皇国の一ノ妃も同じように目覚めなくなってしまう。彼女は最近、息子のサグム皇太子を病気でなくして悲しみが癒えず、<山の離宮>にこもっていた。さらに二ノ妃の息子チャグムも目覚めなくなってしまう。
タンダは姪のカナを何とか助けたいと自分の<魂>を肉体から分離させ、カナの体と<魂>をつないでいる細い糸を追って行くのだが…。
果たしてタンダはカナを助けることができるのか。一ノ妃、チャグムの<魂>はどこへ行ってしまったのか。誰が次々に人々の魂を吸い寄せているのか。
ハラハラ、ドキドキの冒険ファンタジーです。
「夢の守り人」 上橋菜穂子 新潮文庫 2008年1月1日発行 552円+税