「この世で一番大事な「カネ」の話」を読みました(7月8日)
両親の離婚により、母親が兄とお腹の中にいた彼女を連れて実家のある浦戸に戻ってきた。高知県の浦戸は漁師町で、彼女はそこで6歳まで暮らした。浦戸はのどかな田舎町で、裕福ではなかったが何の不自由も不安もなかった。気候がよくて、食べるものに困らなければお金なんてそんなになくってもカリカリしないで暮らしていけるものだと彼女は言う。
その後、母親は再婚し、浦戸から工業団地のある町に引っ越した。そこでびっくりしたのは、周りのお母さんたちがいつも怒っていることだった。そろいもそろって怒ってて、太ってて、へんなパーマをかけている。どうしてお母さんたちがみんな、そんなに殺気立っているかというと、やっぱりお金がないから。
新しいお父さんはばくちばかりやっていて、そのうちお母さんの貯金にまで手を付け始める。それでお母さんも荒れてきて、怒ってばかりの人になってしまった。お金に余裕がないと、日常のささいなことが全部衝突のタネになる。生活のすべての場面でお金がかかわってくるからだ。
貧しさは、人からいろいろなものを奪う。人並みの暮らしとか、子どもにちゃんと教育を受けさせる権利とか、お金が十分にないと諦めなければいけないことが次から次に、山ほど出てくる。それで大人たちの心の中には、やり場のない怒りみたいなものがどんどん、どんどん溜まっていって、自分でもどうしようもなくなったその怒りの矛先は、どうしても弱いほうに、弱いほうにと向かってしまう。貧しいところでは、だから、子どもが理不尽な暴力の、いちばんの被害者となる。あのころ、どの家でも、親が子どもを殴っていた。
そして「貧しさ」は連鎖する。それと一緒に埋められない「さびしさ」も連鎖していく。ループを断ち切れないまま、親と同じものを、次の世代の子どもたちも背負っていく。
理恵子はスナックで酒を飲んでいて、高校を退学させられる。その後大検を受けて美大に行こうとするが、その受験の日、父親はバクチで金がなくなり、会社がどうにもならなくなり、自殺する。当然美大の受験はできなくなった。
しかし、お母さんはなけなしの全財産140万円のうち100万円を理恵子に渡して、東京へ行くように勧める。こうして、東京へは来てみたものの、田舎とは大違いなことに驚く。美大合格を目指して予備校に入り、生徒の作品が上手な順に張り出される、なんと一番最後だった。
自分の得意なものと、自分の限界点を知ること。「それなら、ここで勝負だ」って、やりたいこと、やれることの着地点を探すこと。できないってわかっていることを、いつまでもがんばっていたってしょうがないし、「あそこではなく、ここでがんばるんだ」って決めたら、「ここ」のいいところだって見えてくるからね。
開き直った理恵子は予備校に通いながら、出版社に自分を売り込み、仕事をもらいに回る。エロ本の仕事もし、月に5万円ほど稼げるようになる。
彼女は働いてお金を稼ぐことをこう言っている。
大人って、自分が働いて得た「カネ」で、ひとつひとつ「自由」を買ってるんだと思う。単純な話、働いてお金が稼げるようになれば、できることや行動範囲だって広がっていくからね。「大人になる」って、だから楽しいことなんだよ。
24歳で美大3年生の時、目標としていた月収30万円を実現する。その後彼女の漫画はヒットするが、お金があると今度はマージャンやFXでお金を失うことに。でも彼女の偉いところはそこからちゃんと教訓を得ているところである。彼女は次のように言っている。
「人は反省しない生き物。反省しても忘れる」という教訓を、わたしはそこで学んだよね。学んだけど「反省しても忘れる」から、結局はやめられない。ギャンブルやると、そういう自分のダメさ、だらしなさも、つくづくよくわかった。
ギャンブルでのお金の使い方には、その人自身の人柄や金銭感覚が隠しようもなく、露骨に出てしまう。セコイところ、みっともないところも包み隠さず、全部見えちゃうから、わたしにはそこがおもしろかった。
ギャンブルっていうのは、授業料を払って、大人が負け方を学ぶものじゃないかな。
ギャンブルのために借金なんかしたら、行く先は絶対に「地獄」だと思っていい。
また彼女は「必修科目としてのアルバイト」の中で、「アルバイトと世界放浪は男の子の必修科目だからね!」と言っている。働くことは外の世界の大人たちからたくさん叱られる、叱られて社会勉強ができて、お金がもらえる。自分で身体を動かして、自分なりの経験を積み重ねることが大事だと言っている。世界放浪は、自分の目で世界の現実を見るということが大事だということだ。インターネットで世界の情報は得ることができる。でもそれは誰かの目を通してみた情報であり、自分の五感で得た情報ではない。西原理恵子は男の子の必修科目と言っているが、これは女の子にとっても必修科目であると思う。
また彼女は戦場カメラマンの鴨志田と知り合ってからアジアの国々を訪れ、そこで貧困の現実を見てくる。そして彼らを貧困から抜け出させるためには、援助を与えるのではなく、自立を促すことが大切だと言って、無担保で何か商売を始めることのできる小額の資金を貸し付けるグラミン銀行のことを紹介している。
お金で幸せは買えないけれど、お金がなくて不幸になることはよくある話である。彼女も言っていたが、お金はその人の自由を広げる。そして何よりもお金の使い方はとても難しい。溜め込むだけで使い方を知らない人たち、あぶく銭をパーッと使ってしまう人たち、いろんな人がいる。お金のことを、まるで汚らわしいもののように言う人もいるが、お金のことはよーく考えなければ、不幸になる。
「この世で一番大事な「カネ」の話」 西原理恵子著 角川文庫 2011年6月25日発行 552円+税