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「さきちゃんたちの夜」を読みました(7月17日)

「さきちゃんたちの夜」を読みました(7月17日)_d0021786_16221557.jpgよしもとばななの「さきちゃんたちの夜」を読みました。久しぶりに吉本ばななの本を読みました。「スポンジ」、「鬼っこ」、「癒しの豆スープ」、「天使」、「さきちゃんたちの夜」の5つの短編からなっています。話は独立した話ですが、なぜか登場人物は全員「さき」と言う名前の女性です。

「スポンジ」に出てくる早紀ちゃんは妊娠六か月の女性で編集者。飯岡君から電話がかかってきて、飯岡君は、ゲイで恋人の高崎君がいなくなったと言う。早紀は高崎君の担当の編集者だったので二人のことを知っていた。飯岡君は早紀に高崎君の部屋の鍵を持っていないかと電話で聞いてきたのだ。結局、早紀は飯岡君と一緒に高崎君の部屋へ行くことにした。飯岡君は携帯電話も通じないし彼が自殺でもしているのではないかと心配していたのだ。そして彼のアパートに着いてみると、彼は部屋にはいなかった。早紀はバスルームにあった海綿に鼻をつけてにおってみると、インドが見えた。「高崎君はインドにいて、元気になって帰ってくるよ」と飯岡君に言う。

二つ目の「鬼っこ」はおばさんが九州の宮崎で亡くなり、兄弟とも縁を切った状態だったため、葬式も宮崎のうちの裏に住む黒木さんが済ませ、もうすでに遺骨になってしまっていた。残務整理のために姪の紗季が宮崎へ行くことに。おばさんのうちは青島の近くの平屋の一軒家だった。おばさんはそのうちで小鬼の焼き物を作っていた。そして自分の死とその後のことについて書いたメモが本にはさんであるのを発見した。そのメモには持てるだけの小鬼を持っていって展示してくれ。庭の後ろに古井戸のあとがあるが、そこにいる小鬼は絶対にはずさないように。小鬼が売れたら、そのお金でそこを必ず祠にして、以後小鬼を動かさないようにと書いてあった。裏に住む黒木さんは背が低くまるで小鬼のような太った女の人だった。この黒木さんは次のように語った。「ムメさんはあたしがこんな体で生まれたのも、うちのおじいさんと、お父さんと、わたしの兄が死んだのもこの井戸のせいだから何とかするって言って、鬼をつくり始めた。おかげで、お母さんと、妹と弟は病気になったのに生きている」と。

三つ目の「癒しの豆スープ」は咲の祖父母が土日に近所の人に無料で豆スープをご馳走していた。この祖父母はこわいくらいなにも人に押しつけないふたりだった。豆スープがほしい、おいしい、嬉しい、ありがとう、よかったらこれ受けとって、そこまではみんな思い至る。でも祖母の手がまるでぼろぞうきんみたいにがさがさになって、血が出てばんそうこうをしているのに、それには気づかない。鍋を運んでくる祖父が足を引きずっていても、めったに手伝いはしない。それをなんとも思わないでいられる、あるいは目に入らない、あるいは見てみぬ振りをする、人間の鈍感さ。あるいはずるさ。離婚して別居している父(スープを作っていた祖父母の息子)は時々やってきて祖父母が作っていた「癒しのスープ」を作ろうと試行錯誤していた。そんなある日8歳くらいの女の子が「これおばあちゃんのお仏壇にあげて下さい」と言ってハンドクリームを持ってくる。
そして豆スープを再開すると決めた咲は母の「どうして豆スープを始めるの?」という質問に次のように答えた。「おじいちゃんとおばあちゃんを喜ばせるため。あと、人の喜ぶ顔を見たいから。でもね、あの強欲な人々の列を見てるほうが、わたしは善人たちを見てるよりもほっとする。育ちが悪いもんでね。あとはおばあちゃんのことをほんとうに好きだったから」と。

四つ目の「天使」では、つき合っている鈴木さんの元奥さんに呼び出されて「あんたなんか死ねばいい」「あんたさえいなければ」と沙季は言われる。だが沙季が鈴木さんと知り合う前に、すでにふたりは離婚していた。沙季は子宮がんの手術をして、結婚というものにまったく興味を持てなくなった。でも子どもが好きで保育園でアルバイトをしていた。
鈴木さんは保育園のすぐ近くのビルの1階でかわいいテラスがある小さなビストロでオーナー兼シェフをやっていた。彼と挨拶を交わすうちに仕事帰りに彼の店でごはんを食べていくようになった。そんな沙季は鈴木さんにとって天使だった。そしてふたりは…。

五つ目の「さきちゃんたちの夜」は絵本作家の事務所で働いている崎のもとへ姪のさきから電話がかかってくる。家出したからそこへ行ってもいいかと。双子の兄はエビの養殖と輸入の会社をやっていたが1年前にベトナムで飛行機事故に遭い亡くなった。残されたさきと義姉だったが、義姉は男の人と付き合い始め、その人をうちに連れてくるというので、さきはうちを飛び出してきたらしい。高校生のさきとおばの崎の話です。

五つの作品の中では「癒しの豆スープ」が一番印象的でした。

「さきちゃんたちの夜」 よしもとばなな 新潮社 2013年3月30日 1300円+税
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by irkutsk | 2013-07-17 16:22 | | Comments(0)