「もし日本という国がなかったら」を読みました(8月4日)
1944年生まれの彼はハーバード大学大学院を卒業した後、ワルシャワ大学とパリ大学への留学を経て、1967年初めて日本へやってきます。その後オーストラリアでの生活をはさみ50年以上日本に住み、日本文化を研究し、新聞、雑誌等に日本紹介記事を書いたり、映画助監督、脚本、日本文学に関する著作など幅広い活動をしています。また日本の文化人とも親交が深く、また日本各地を旅して、それぞれの地域の文化も研究しています。
彼はこの本の中で次のように語っています。
「西洋美術のゴールは完全無欠であるが、日本美術のゴールは長持ちしないもの、時とともに色あせ、命のはかなさを表現できるものを創ること。」
日本の文化について、日本は五つの独自な文化で成り立っているとも言っています。
1、東北 類を見ない神秘性
2、東京 親子どんぶりのような「拝借文化」
3、京都 やわらかく感性的な女性の文化
4、北九州 韓国文化の美しい影響
5、沖縄 中国、ポリネシア、東南アジアの文化の名残
日本にはなんと豊かな多様性があるか。
宮沢賢治の思想に彼は共感を覚え、賢治の無私の心はどこからくるのか。それは日本という譲り合いによって社会の和が保たれている国で育ち、日本の風土で日本の人々のあいだで育ったことによるものだと言っています。
「宮沢賢治は自らを森羅万象の中の小さな一部であると考えていた。国家の最大の目標が経済成長と国力の増強であった時代に、賢治は21世紀の僕らに向けてメッセージを送っているのです。自然を破壊しないよう、自然の力を利用せよ、経済的に繁栄するのはもちろんよいことだが、それをすべての人の幸福を守るような形でするように。進歩といってもすべての人間に対する思いやり、自然環境への愛情を忘れないようにすること」と言っています。
日本人の間であまり知られていないが、日本文化を創り、支えてきた人として次のような人を挙げ、彼らが日本文化にどのような貢献をしてきたのかを詳しく説明してくれています。
尾形イッセー、観世寿夫、宮沢賢治、坂口安吾、早川雪洲、南方熊楠、高峰譲吉、杉原千畝、藤牧義夫など。
また日本語についても「日本語が日本人の思考と感情をデザインする媒体となっている」と言い、日本語が「曖昧」であると言われているがそれは間違っており、「話し手が明確な伝え方をしたときに、聞き手がその意味や話しての意図を理解できたか?もし理解できたなら使われたフレーズは曖昧でも、多義的でもありません」と言っています。
そして「日本人が自分たちの「日本語」という言語の良さをもっともっと理解し、愛するようになり、世界中の人たちに学んでもらいたいと強く求めるようになることがとても重要です」とも言っています。
日本人でない彼が、日本に住み、日本文化を肌で感じ、体験し、また過去の日本人についても研究し、日本という国が世界に例のない国であり、日本という国がなかったら世界はどうなっていただろうかと言っている。
日本人は、日本人の持つ他人への思いやり、気遣い、無私の心など世界に例のない優れた文化を持っており、その文化を大切に守り、世界に広げていくことによって日本は世界から尊敬される国になれるし、世界の対立を救うのは日本文化であると彼は言いたかったのではないだろうか。
「もし日本という国がなかったら」 ロジャー・パルバース著 集英社インターナショナル 2011年12月20日発行 1700円+税