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「言語小説集」を読みました(8月8日)

「言語小説集」を読みました(8月8日)_d0021786_2240265.jpg言語に関する短編小説7編が収録されています。
「括弧の恋」は上のかぎかっこ「と下のかぎかっこ」をめぐる話です。ある広告代理店の社員が使っているワープロの内部での物語。登場するさまざまな文字記号がいろんな意見を述べるのですが、それぞれの記号の持つ特性が性格になっていておもしろかったです。たとえば感嘆符!は、なにかというとすぐかっとくる性格。なにごとも疑わないではいられない?

「極刑」はある演劇グループで意味のないことばのせりふを言わなければならなくなった女優の話。

「耳鳴り」は作家の元に送られてきた奇妙な手紙の話から始まる。その手紙の差出人は町工場で働きながら高校時代の仲間と作ったロックバンドでヴォーカルを受け持ちこつこつとライブ活動をやっている。曲を作るのも彼の役目だ。その彼があるとき電車に乗っていて、電車が急停車したときウォークマンから聞こえてきたのが「びっくりびっくり島」の主題歌だった。そのせいで彼は耳鳴持ちになってしまったという。その症状と医者へ行ったときの女医との対話が面白おかしく描かれている。

「言い損ない」は戸塚駅近くに母親とふたりで暮らしている大学院生の話。彼は子どもの頃、母親が同年代の女性たちと酒を飲んで話していた下ネタ話がトラウマになり、うまく話せなくなった。アメリカでも、日本に帰ってからもそのことで人間関係がうまくいかず、それでも大学院を出る前に結婚したらと母親に勧められてお見合いするのだが…。

「五十年ぶり」は方言の研究をしていて、方言学のある有力な学会の長を務めていた中川先生の話。今日は教え子たちが一人3~4万円は軽く取られそうな高級料亭で喜寿のお祝いをしてくれている。先生は酔っ払ってトイレに行くが、そこで会ったのは学生時代に方言調査をしていてスパイと間違えられ、中川に白状しろと小便をかけた刑事だった。今は議員バッジを付けて若い秘書を連れている。中川はこの機会に50年ぶりに仕返しをしたのだった。

「見るな」は三陸の小さな港町・船越の方言はマレー語と共通しているものがたくさんあると言う話。それはマレー人が昔海を渡って船越へやって来たに違いないという話。果たしてその真実は?

最後の「言語生涯」はある私鉄で働いていた社員の話。彼は入社して5年後、本社へ引き抜かれることになった。ところが皮肉なことに、このあたりから彼の言語運用に重大な変調が見られるようになった。その一例を紹介すると、「大便ながらくお待たせしました。まもなく一番線に新宿行き快速が入ってまいります。そのまましらばくれてお待ちください」、「一番線に電車が這ってまいります。どなたも拍手でお迎えください。」、「車内ではお互いに席をゆすりあいましょう」、「お年寄りや生活の不自由な方に席をゆずりましょう」。、「この先ゆれますので五十円ください」。果たして彼の運命はどうなるのか?

「言語小説集」 井上ひさし 新潮社 2012年3月30日発行 1300円+税
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by irkutsk | 2013-08-08 22:40 | | Comments(0)