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「上京ものがたり」を読みました(10月2日)

「上京ものがたり」を読みました(10月2日)_d0021786_17462032.jpg先日読んだ「女の子ものがたり」の続編。美大入学をめざして上京した西原理恵子が東京で何をしたか。お金がないのでまず稼がなくてはならない。東村山の小さな居酒屋でバイトを始める。やがて彼氏ができて一緒に住み始める。彼はやさしい人だが、仕事をしない。彼女は日払いのコンパニオンの仕事に行くようになる。そしていよいよお金がなくなって、いろんなことをした。スーパーでゴム靴を売ったり、チラシ配ったり、食器洗ったり、交通調査したり…。

できるだけ時給のいいところで働こうと新宿歌舞伎町のミニスカパブで働くことにした。最終電車を2本乗り継いで、さらに自転車に乗って20分で、ようやく家まで帰っていた。お店に来るお客さんはいろんな人がいた。本が好きだと言ったら、出版社の倉庫係のおじさんが両手一杯に何十冊もの本を持ってきてくれたり、酔ってべろべろと顔をなめるおじさんとか大金持ちですと言うけど、ぜんぜん大金持ちじゃない人とか。

帰りに乗った終電で酔ったおっちゃんがものすごい量のげろを吐いて、電車が揺れるたびにそれが広がってきて私の足にまでやって来た、でも満員で動けない。ほかの人の靴にもたくさんついている。1時間みんなそのままだった。終点に着くとそのおっちゃんは陸上選手みたくダッシュで逃げていった。

帰りにうっかり寝過ごして、電車を降りたのは5つ先の駅。財布には千円しかなく、真っ暗な国道を早足で歩く。ときおり車が通り過ぎる。ナンパしてくれないかなあ、そいで家まで送ってくんないかなあ。でも誰も止まってくれない。交番があった、おまわりさんが心配して声をかけてくれないかなあ。それで家まで送ってくれないかなあ。交番を通り過ぎる。何時間か歩いてすっかり道に迷い、仕方なくなくタクシーに乗る。運転手に「千円しかないのでそれまででのせてください」と言う。もしかしたら家まで送ってもらえるかもしれないし。でもタクシーは970円で私を降ろし、わたしは朝まで歩いた。

22歳になり、画用紙を小さく切って手書きの名刺をたくさん作り、売り込みに回った。ある日、エロ本の小さなカットの仕事が来た。その時の気持ちは「やったあ、やったあ。もうあたしはただのつまんないあたしじゃない。東京でたくさんの人が読むえっちな本に自分の絵をのせているちょっとちがう女の子」。そして仕事が順調になり、勤めていた夜の店は週3回になり、週2回になり、ついにやめることができた。

築40年だけど鉄筋でおフロがあって、お台所があってそれ以外に部屋が二つもあるところに引越し、とても幸せだった。新しいアパートに働いていない男がやってきて、住みつく。でもころがり込まれたんじゃない。私がまねき入れた。一人がいやだったから。仕事とお金があって自分に自信がついたわたしは彼をよく怒るようになった。そして彼はある日、出ていった。

この本の最後のところがよかったです。読者からの手紙にこう書かれていた。「毎日仕事がしんどくて、上司ともうまくいかなくて、家に帰っても心が苦しくて、眠れなくて。そんなときにあなたの本を読みます。あははとわらって、いらいらしてた自分がもうどーでもよくなって、それでぐっすりねむれます」。わらってくれてありがとう。人の心の役に立つことがこんなにうれしいことと思ってもいませんでした。

西原理恵子の波乱万丈の人生の一コマが自らの絵と文で描かれたおもしろい本です。


「上京ものがたり」 西原理恵子著 小学館 2004年12月20日発行 781円+税
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by irkutsk | 2013-10-02 17:46 | | Comments(0)