「iPS細胞の世界」を読みました(1月23日)
iPS細胞はES細胞の中で働いている遺伝子を体細胞の中で働かせることで、細胞の性質を変えて、ES細胞のような細胞が作れるのではないかと考えて2000年に研究が開始された。しかしES細胞の中で働いている遺伝子は非常にたくさんあり、当時はどの遺伝子を働かせればよいのか、またいくつの遺伝子が関わるのかについて、まったく見当もつかない状況だった。そこで細胞の性質を変える可能性のある遺伝子100種類程度を選び出し、それをさらに24種類に絞込んだ。一つずつ導入しても変化は見られなかった。だが24種を同時に導入するとES細胞らしきものが観察された。そして一つだけ取り除き23種でできるかどうかという実験を繰り返し、ES細胞様の細胞になるために必要な遺伝子の候補4つを突き止めることができた。
人間の体は1個の受精卵から約200種類、60兆個の細胞を作り出している。iPS細胞によって体の仕組み、病気の発症する仕組みや原因を調べることができる。また薬剤の反応を調べ、新しい薬の毒性試験に利用することもできる。さらにiPS細胞から作った細胞を用いて治療する再生医療への応用もできる。
加齢黄班変性の患者が日本には69万人いるが滲出型の場合、まず新生血管を取り除いた後、iPS細胞から作成した網膜色素上皮細胞を移植することで治療できる。またiPS細胞は目的の細胞に分化した後、何かの拍子にiPS細胞のような多能性をもつ細胞に戻り無限に増殖することでがん化してしまう可能性がある。また目的の細胞に分化した細胞だけでなく、分化せずにiPS細胞を含んだ細織を移植してしまい、iPS細胞が勝手に増えてしまう可能背がある。しかし、目という場所は、元々とてもがんが発生しにくい環境にあると言われている。
他にもパーキンソン病、脊椎損傷、糖尿病、血液疾患などの治療についても研究が進められている。しかし、新薬の開発には9年から17年もの長い年月がかかるため、すぐにもiPS細胞を使った病気の治療ができるというわけではない。
だが、iPS細胞によって医学が大きく進歩することになるのは間違いない。
「iPS細胞の世界」 京都大学iPS細胞研究所編著 山中伸弥監修 日刊工業新聞社 2013年9月20日発行 2,000円+税