「銃・病原菌・鉄」(上)を読みました(2月5日)
そして15世紀にヨーロッパ人が新世界を植民地化できた要因として、銃器・鉄製の武器・騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、文字などをあげている。
食料を自分で生産できる人びとは、当初から狩猟・採集民よりも人数面において軍事的に優位にあったと言っている。
食料生産を始めた地域は世界にほんの数ヵ所しかなく、しかも同じ時代に始まったわけではない。食料生産を先んじて始めた人々は銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと踏み出した。この一歩の差が、持てるものと持たざるものを誕生させた。
農耕が自発的に起こった地域は1、メソポタミアの肥沃三日月地帯、2、ニューギニア、3、アメリカ合衆国東部の3地域で、その中でもメソポタミアの肥沃三日月地帯は地中海性気候と農作物として育成できるような野生種が豊富に分布していた、自殖性植物の占める割合が高かった。そしてユーラシア大陸では世界で最も幅の広い同緯度地帯があるので農作物が最も劇的に伝播した。それに比べアメリカやアフリカでは南北に連なっているために伝播速度は著しく遅かった。
農耕に必要な家畜についても考察されており、家畜となった動物の主要5種は、羊、山羊、牛、豚、ウマであり、世界中の大陸で大型の陸生哺乳類が一番多く生息していたのはユーラシア大陸であった。つまり、家畜化可能な動物が一番多く生息していたのである。
しかし、家畜は人間に良いことばかりをもたらしたわけではなく、同時に病原菌をももたらした。家畜化された動物からの恐ろしい贈り物として次のようなものがあげられる。麻疹(牛疫)、結核(畜類)、天然痘(畜類(牛痘))、インフルエンザ(豚、アヒル)、百日咳(豚、犬)、熱帯性マラリア(鳥)。
ユーラシア大陸から運ばれてきた病原菌で命を落としたアメリカ先住民は、ヨーロッパ人の銃や剣の犠牲となって戦場で命を失ったものよりはるかに多い。一人の奴隷が1520年にメキシコにもたらした天然痘の大流行のおかげで、スペイン側は勝つことができた。2000万人だったメキシコの人口は1618年には160万人にまで激減してしまった。
少数のヨーロッパ人が、圧倒的な数の先住民が暮らしていた南北アメリカ大陸やその他の地域に進出していき、彼らにとってかわったのは、ヨーロッパ人が、家畜とのながい親交から免疫を持つようになった病原菌をとんでもない贈り物として、進出地域の先住民に渡したからだったのである。
「銃・病原菌・鉄」(上) ジャレド・ダイアモンド著 倉骨彰訳 草思社 2000年10月2日発行 1,900円+税