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「青葉繁れる」を読みました(5月19日)

「青葉繁れる」を読みました(5月19日)_d0021786_14514159.jpg終戦後間もない仙台の一高3年生の青春物語である。主人公の稔(料亭の息子)、ユッヘ(2年生のときに180日間も山へ入っていた)、ジャナリ、胼胝(たこ、サッカー部でヘディングばかりしていて、でこに胼胝ができた)の4人組に、東京から転校してきた俊介が加わり、いろいろな事件を起こしていく。

一高近くにある煎餅屋「一高軒」にアルバイトに来ているひろ子が二女高の三年生であるということが分かって、彼らは二女高の演劇部と合同公演で「ハムレット」の英語劇をすることになった。しかしお目当てのひろ子は8月で退学してしまった。また9月中旬の公演は散々な結果に終わった。公演翌日の片付けには二女高の美化委員6人がやってきた。
彼女たちは明らかに演劇部員たちよりはかわいい子が多かった。一人を除いて。しっかり者の俊介は、美化委員たちに今度の土曜日に松島の五大堂へ一緒に行く約束をする。

そして当日、5人は先に行って待っていた。相手が6人で、こちらが5人だと一人あぶれてしまうから、誰かが二人を引き受けなければならないと、じゃんけんをしてその役を引き受けることになったのはジャナリだった。

ところがやって来たのは、一人だけで美人度10点の女の子だけだった。男連中はみんな家族を病気にしたり、殺したりして帰らなければならないと言い、デコがその役を押し付けられることに。

ユッヘと稔は山へ行き、帰りにみんなのアイドルで俊介の姉でもある芸者の多香子ねえさんが一高の校長と途中から列車に乗りこんできた。その様子が恋人同士のようで、彼ら5人は大騒ぎに。そして校長が稔の店から出て駅までの道で待ち伏せをして、校長をなぐる。そしてその結末は…。

「新装版あとがきに代えて」(2007年)で井上ひさしが書いているが、「敗戦後の数年間、日本列島には、大雑把に言えば、三種類の大人たちがいた。第一群は、「私たち大人はまちがっていた、その間違いを子どもたちの前で明らかにしながら、この国の未来を彼らに託そう」と考えた大人たちである。第二群の大人たちは「私たちに間違いがあろうはずがない。しかし今は連合国の管理下にあるから、それを言い立てても仕方がない。しばらくひっそりと息をひそめて復権の機会を待とう」と神妙にしていた。第三群は、「今日の食べ物はあるのか」と目を皿のようにしていた人たちで、大半の大人がこの第三群だった。」

ところが昭和二十年代後半から「復古調」というお囃子にあわせて一気に息を吹き返してきて、たちまちのうちに学校を子どもたちを管理する施設に仕立て直してしまった。第一群の大人たちが子どもたちの意志を懸命に後押ししていた時代があったことを文字に残しておきたくてこの小説を書いたそうだ。

2007年といえば現在の安倍首相が総理になり、「美しい国日本」をスローガンに、教育基本法の見直し、憲法改正のための国民投票法の制定などを行った頃である。今の教育者に是非読んでほしい一冊である。

「青葉茂れる」 井上ひさし著 文春文庫 2008年1月10日発行 543円+税
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by irkutsk | 2014-05-19 14:51 | | Comments(0)