「虹の岬の喫茶店」を読みました(5月26日)
この小説の主人公悦子さんは60代で、一人で国道から外れた岬の先端で喫茶店をやっている。その小さな喫茶店には2枚の絵がかけられている。1枚はこの店の常連で美大生2年のみどりさんの絵。そしてもう一枚は悦子さんの亡くなった夫が書いた「虹の絵」。その「虹の絵」は光の粒をちりばめたような見事なオレンジ色に染まった夕空と海。そこに、神々しいような虹がかかっている。海の向こうに描かれた半島の形や富士山の配置からすると、この窓の外に広がる風景を写生したことは明らかだった。夫が描いたこの絵の景色を見るために悦子さんはここに喫茶店を建て、大きな窓からこの絵と同じ虹を見るために待っているのである。
小説は6章からなっており、春から始まり冬までの4章はこの喫茶店を訪れた4人の話。最初は急性骨髄性白血病で妻を亡くし、4歳の一人娘・希美(のぞみ)と5月の連休を車で虹を探しに出かける親子の話。
夏はバイクに乗った大学4年生今泉健がガス欠の250ccバイクを押しながら、トイレをもとめてやって来る話。
秋はこの喫茶店に泥棒に入った元「研ぎ屋」の男の話。冬は悦子さんに思いを寄せる建設会社の常務・タニさんの話。彼の会社も不況の波に飲まれ、彼は大阪の子会社へ社長として転任を命じられる。そして今日がこの店へ来るのも最後になるという日。悦子さんへのプレゼントとして天体望遠鏡と月の土地の権利書を持ってやってきて最期の夜を過ごす。
この4つの話は連続した季節ではなく、何年かの歳月をおいたそれぞれの季節の出来事である。
第5章はこの喫茶店の隣にライブもできる居酒屋を自分で建てている甥の浩司について書かれている。彼が不良だった頃から、バンドを作り、それが解散し、塗装業をやっていたが自分の夢を実現させようとこの岬に住み着いたのである。
そして第6章では悦子さんのこと、喫茶店にかけられた虹の絵のことなどが描かれている。
登場人物それぞれが実に生き生きと描写されており、岬の喫茶店とそこで起こった出来事がありありと目に浮かぶようである。秋の映画の公開が楽しみである。
「虹の岬の喫茶店」 森沢明夫著 幻冬舎文庫 2013年11月15日発行 648円+税