「百瀬こっちを向いて」を読みました(6月9日)
さて話のストーリーは映画とほぼ同じ。高一で根暗なノボルは女の子とは全く縁がなく、自分でも人間レベル2と卑下していた。そして同じような友だち田辺と漫画やゲームの話ばかりしていた。同じ高校の3年生には、幼馴染で子どものころ助けてもらったことがあり命の恩人と思っている先輩・瞬がいた。彼はサッカー部のキャプテンで頭もよく、女の子にももて、人間レベル90以上だった。彼は全校の男子から憧れの目で見られている神林徹子と付き合っていた。神林徹子のうちはお金持ちだった。瞬は大学に行って経営について学び、父親の経営する紳士服店の跡を継ごうと思っていた。すでに瞬はいくつかの計画を持っていて、後は資金を調達するだけなのだといっていた。
ある日、ノボルは瞬に呼び出され、図書館で一人の女の子を紹介される。それが百瀬だった。野良猫のように挑戦的な目つきだった。瞬は同学年の神林徹子という彼女がいながら、1年生の百瀬とも付き合っていたのだった。そしてそれを誰かに目撃され、噂が広まっているという。そのうわさを打ち消すために、百瀬はノボルと付き合っているというフリをしてくれという頼みだった。
その日から学校の中では百瀬がノボルにくっついてきて、彼女のフリをして、手をつないで一緒に下校するようになった。でも校門を出ると手を放し「じゃあ、この辺でおわり」と言うのだった。ある日校内で、瞬と神林徹子がいるところに百瀬とノボルは出くわし、二人と話をした。そしてしばらく後、神林徹子がダブルデートをしないかと言っていると瞬から聞かされる。
ダブルデートに向けて、ダサい格好で来ると私が恥ずかしいと言って、百瀬はノボルのうちまで押しかけ、着ていく服を選び、母親にもノボルと付き合っていると嘘をつく。そして晩ごはんまでご馳走になって帰っていった。
そして4人はダブルデートをすることになるのだが…。
終わりは映画とちょっとちがっていて、個人的には映画の終わり方のほうがよかった。
この本には「百瀬こっちを向いて」のほかに3篇の短編が入っておりそれぞれにおもしろい内容だった。
「なみうちぎわ」は高校2年生の少女が、近所の登校拒否になった小6の男の子の家庭教師をやってやることになるが、ある日、近くの海で彼がおぼれそうになっているのを見つけ、助けようとして海に飛び込み、男の子は助かったが彼女は5年間こん睡状態陥る。そして5年後の秋、彼女は目を覚ますが、彼はすでに高校2年生になっていた。
「キャベツ畑に彼の声」は高校に通う女生徒が、アルバイトで出版社のテープおこしをしていたが、有名ミステリー作家の声と国語の教師の声が同じであることに気づく。その作家はプライベートな部分を表に出さない覆面作家とされていた。そしてある日、彼女は先生がその作家ではないかと質問し、彼はそれを認めるのだが…。
「小梅が通る」は、本当は美人で周りの男がちやほやする主人公・春日井柚木がわざと誰にも振り向かれず、ぶすと呼ばれるように変装して高校生活を送っていた。それには理由があった。男たちは自分の美しさに惚れているのであって、私という人間を見ていない。そして女の子たちからは反感を持たれ、女友達は一人もいない。そんなことから柚木は毎日眉を書き、ビン底メガネをかけ、ほくろをあちこちに描き、口の中に綿を挟んで下ぶくれ顔にして登校する。そしてもてない女の子二人と三人で弁当を食べていた。そこへお馬鹿で元気のありあまっている山本寛太がふざけていて彼女たちの机に突っ込んできて、三人の弁当箱はひっくり返ってしまった。彼がお詫びにとくれたくしゃくしゃで端っこのちぎれた焼肉チェーンの70%割引券をくれた。それを持って、家族と焼肉を食べに行くことに。その時は元の顔で行ったが、なんと彼はその店でバイトをしていたのだった。柚木とは気づかず、でも彼がやった割引券を使っていたし、春日井という名前で予約も入れておいたので、春日井柚木に渡した割引券だということが分かった。「柚木さんのご家族の方ですよね」と問われ、柚木の妹の小梅ですと答えた。それから山本は学校で柚木に小梅と会わせろとしつこく言ってくるようになる…。
女子高生の心理がうまく書かれている作品ばかりでした。
「百瀬こっちを向いて」 中田永一著 祥伝社 2008年5月20日発行 1400円+税