「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読みました(7月11日)
「十月四日早朝、鳥取県境港市、蜷山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見された。身元は市内に住む中学二年生、海野藻屑さん(13)と判明した。藻屑さんは前日の夜から行方がわからなくなっていた。発見したのは同じ中学に通う友人、A子さん(13)で、警察では犯人、犯行動機を調べるとともに、A子さんが遺体発見現場である蜷山に行った理由についても詳しく聞いている……。」
そしてこの殺された海野藻屑が、A子こと山田なぎさの通う中学校に転校してきたのは事件の起こる1か月前、九月の三日か四日だった。彼女の父親は昔バンドをやっていて、かなり有名人だった。母親は美人女優だったが離婚して、藻屑は父の雅愛と二人で暮らしていた。藻屑は変わっていた。女の子なのに自分のことを「ぼく」と言い、自分は人魚だと言う。最初の日、野球部員の花名島が藻屑に足をかけて転ばせたとき、なぎさはスカートの中の青白い腿、薄い水色の下着が見えた。さらにのたうつ鮮やかな……痣が。痛々しい殴打の痕が輝いていた。拳の形の痣が、紫色だったり腐ったような緑色だったり赤黒かったりして、皮膚の上に浮かび上がっていた。
なぎさのうちは母子家庭で引きこもりの兄・友彦がいた。藻屑はなぎさと友達になりたかったのだが。そして友達になったと思ったその日に、父親に殺され、体をバラバラに切断されて蜷山の中腹に捨てられたのだった。藻屑は父親に虐待を受けていたが、ストックホルム症候群で父親に愛情を抱き続けていた。
事件後、担任の教師は藻屑が父親に暴力を振るわれていたのを知っていて、何とか助けようと努力していたらしいが、藻屑が父親の暴力を否定していたという。
物語の構成はなかなかおもしろい。最初に結末(海野藻屑がバラバラの死体で発見され、それを発見したのが同級生のA子)があり、その結末に至る過程を藻屑が1か月前に転校してきたところから語られている。そして作品の最後にこの事件はどうして起こったのか、誰が犯人なのかが明らかにされる。
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」 桜庭一樹著 角川文庫 2009年2月25日 476円+税