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「評価と贈与の経済学」を読みました(7月29日)

「評価と贈与の経済学」を読みました(7月29日)_d0021786_9241896.jpg岡田斗司夫FREEex氏と内田樹氏の対談を本にまとめたものです。内田樹の考え方が分かりやすく述べられており、しかもいろんな切り口から彼の考えを知ることができる貴重な一冊です。

本書は次のような構成になっています。
第1章 イワシ化する社会
第2章 努力と報酬について
第3章 拡張型家族
第4章 身体ベースの人間関係を取り戻す
第5章 贈与経済、評価経済
第6章 日本の豊かな潜在力
第7章 恋愛と結婚

第1章では内田氏は武道について「本来の武道は強弱、勝敗、巧拙は論じない。ひとりひとりのパーソナルな身体的な潜在能力をどこまで開発するかを研究する。比べる相手がいるとしたら、ライバルじゃなくて「昨日の自分」。強くなるかもしれないけど、強いってことにあまり意味がないんですよ。自分自身の生きる力を高めることが目標だから。生きる力って、人と比べるものじゃないでしょう。どんな苦境でも、にこにこ笑っていられる力なんて、そんなのオリンピックの種目にならないもの」と言っています。

第2章では努力と報酬の関係について話されている。「努力に対して未来の報酬が約束されていた時代なんてなかった。努力と報酬は原理的に相関しない。努力していると思いがけないところから「ごほうび」が来るかもしれない。でもそれはまさに思いがけないものであって、努力の量に相関するものではない。自分で「こんなことしてるオレって、本当にいいやつだな」って思えれば、それだけで生命力って向上する。だからいいことをした時点で、すでに報酬を得ているんです」。

第3章では拡張型家族について、「家族制度の基本って、身体性でしょ。だからテクノロジーの進化とはあまり関係ない。とりあえずおなじ空間に寝起きして、「同じ釜の飯」を食う。「おはよう」「おやすみ」「いただきます」「ごちそうさま」「いってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」その八語を家族全員が適切なタイミングできちんと口にできるだけで家族制度は充分持つ」と言っています。

第4章では、身体性の問題。「身体性を取り戻すには単純で原始的なことに取り組むしかない」と養老猛司が言っている。廊下のぞうきんがけ、トイレ掃除、庭掃除。これらはエンドレスの作業である。我々がいま当然のように生きている文明的な空間は誰かが必死になって無秩序を世界の外に押し出す仕事をしてくれたおかげで確保されている。当たり前に見えることが、実は無数の人間的努力の総和によって成り立っている。

掃除をやっていると人間の営みの無意味性に気づく。それが大切。意味がないように見えるものの中に意味がある。はかなく移ろいやすいもののうちに命の本質が宿っている。

最後にこんなおもしろいことを言っています。「観念で結ばれた関係は一夜で崩壊するが、起居をともにして作られた関係はなかなか崩れない」。

第5章では、人の世話をするのは、自分が「持ち出し」でやっている。これを損していると考えるところに間違いがある。かつて自分が贈り物をされたものを、時間差をもってお返しすることなんだと言っています。自分が他人からなにをしてもらえるかより先に、自分が他人になにをしてあげられるかを考える人間だけが、贈与のサイクルに参入できる。それはその人の貧富とか、社会的地位の高低とはまったく関係がないんです。一番最初のパスはお金や物じゃなくても、お手伝いとかでも成立するんですと言っています。

第6章では日本のすばらしさについて書かれています。日本が持っている潜在的な力はかなり分厚い。環境がいい(森林面積が国土の68%、水資源も豊か、山紫水明)、食べ物もおいしい、ホスタピリティの質は世界一、エンターテイメントも多種多様。あと医療と教育さえ整っていれば、世界最高レベルの付加か価値国歌になれる。しかし、医療と教育を削って日本的システムを壊して、他の国の真似をしてきたのが失われた20年である。失われたのはお金じゃない。

この20年間くらいで変わったことは、外形的、数値的な基準で人間を判断するようになってきたこと。勝ち負けだけが問題で、誰もが他人との比較で、どっちが上か下か、その優劣ばかり気にしている。競争社会では「誰が見てもすぐに優劣がわかる能力」を基準に格付けされる。でも人間の能力の90パーセントは「外見からだけではわからない」ものなんです。生物としての強さは、何でも食べられる、どこでも寝られる、誰とでも友達になれるの三つです。

第7章では、結婚について次のように言っています。「二人で生計をひとつにして、一方が仕事ができなくなったら他方が稼ぐ、一方が病気になったら他方が看病する。そういう相互扶助・相互支援の安全保障体制を作り上げることが結婚の基本。セーフネットを形成しておけば、自分自身のフリーハンドはずっと大きくなる。結婚すると自由がなくなるとか、可動域が狭くなるとか思っている人が多いけれど、それはちがうと思う。

一番頼りになる人間的資質は、「人柄の良さ」です。多様なチャンネルを持っていて、質の高い相互扶助関係ネットワークに登録されている人のほうが生き延びる可能性が高い。

夫婦は非対称的な関係にあったほうがいい。自分ができることが相手にはできず、相手が得意なことが自分は苦手というのがバランスがいいんです。

最後にあとがきで内田樹氏は次のように言っています。「戦後日本社会は、例外的に豊かで安全でした。お金さえあればひとりで愉快に暮らしていけた。むしろひとりの方が、ずっと自由気ままで快適に暮らすことができた。そういう中で僕たちは「どうやって共同体を維持するか」という経験知の大切さを忘れてしまいました。共同体なんかなくても、お金さえあれば、必要なものは全部市場で商品として購入することができたからです。でも21世紀に入って、そういうシンプルな生き方がもう許されなくなった。第一に「金がない」、第二に「本当に必要なものは金では買えない」ということがわかってきた。

内田氏の考え方がぎゅっと凝縮され、わかりやすく説明されている本です。

「評価と贈与の経済学」 岡田斗司夫FREEex、内田樹 徳間書店 2013年2月28日発行 952円+税
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by irkutsk | 2014-07-29 09:24 | | Comments(0)