「ハルさん」を読みました(9月9日)
頼りない人形作家の父と、日々成長する娘の姿を優しく綴ったほのぼのミステリ。
本の中で瑠璃子さんの言う言葉がすてきです。小学校4年生のときの夏休み、ふうちゃんがいなくなった時、「恐怖に踊らされちゃダメ。どうせ、誰もがいつかは死ぬの。だから今ある人生を楽しんで。……わたしの分まで」
第三話の「涙の理由」では仲良しのちかちゃんが転校することになって、悲しんでいるふうちゃんのことがわからなくて、いじめにあっているんじゃないかと気を揉むハルさん。
第四話「サンタが指輪を持ってくる」では高校3年生のふうちゃんが冬休みに花屋でアルバイトを始めたのだが、二日目の24日にお客さんが店で落とした小さなクリスマスプレゼントを渡そうと、後を追いかけて凍った道路で滑って転んで骨折してしまう。そのプレゼントはクリスマスプレゼントだったのだが、落としたお客さんにどうやって渡すのか。雲をつかむような話だったが、この話の結末はとても意外で、かつほのぼのとしたものでした。トリックも効かせてありました。
あとがきで作者は自らの不幸な家庭状況(酒を飲んだ父親のDV、一家心中しようとして自宅に放火した母親)について述べ、「だからその反動としてハルさんというキャラクターなのかもしれません」と書いています。
妻・瑠璃子さんを亡くし、ハルさんは一人でふうちゃんを育てるのですが、その子育ての様子がほのぼのと、かつちょっと深刻に書かれています。亡くなった奥さんの瑠璃子さんが、いつも困ったときに現れて、問題を解決してくれます。本を読んでいてふうちゃんが幼稚園児、小学生、中学生、高校生、大学生と大きくなっていくのが楽しみでした。そして結婚式。ふうちゃんは海外で働いている夫と結婚し、二人とも海外で暮らします。残ったハルさんはきっとさびしくなるんでしょうね。大学も北海道の大学に行っていたので一人暮らしだったんだけど。北海道からなら飛行機ですぐに帰ってこれるけど、海外では…。
「ハルさん」 藤野恵美著 創元推理文庫 2013年3月22日発行 720円+税