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「小説外務省-尖閣問題の正体」を読みました(10月5日)

「小説外務省-尖閣問題の正体」を読みました(10月5日)_d0021786_107879.jpg小説の主人公は外務省第三国際情報室長の西京寺大介。彼は1977年生まれで東京大学を卒業し1999年に外務省に入省。ロシア語の研修を命じられ、最初の2年間はハーバード大学で、3年目はモスクワ大学で研修を受けた。

外務省というところは「命じられたことだけ、目立たずに実施すればいい」、「上司の意見に従う」、「米国の意見に従う」というのが処世術だとされている。

今、尖閣諸島をめぐって日本と中国との関係がぎくしゃくしているが、いったいいつからこうなったのか。何が原因でこんなにもめ始めたのか。その背景には何があったのか。そしてこの状態を解決するにはどうしたらいいのかを小説仕立てではあるが、明快にしてくれた一冊である。

ことの発端は2012年4月16日、石原都知事がアメリカのヘリテージ財団主催のシンポジウムで尖閣諸島を東京都が買い取ると表明したことである。このヘリテージ財団というのは共和党系で最も力の強い研究所で、CIA、DIA(軍諜報機関)経験者が勤務しているところである。

この都知事の表明に対して、当時の丹羽中国大使は「もし石原氏の尖閣諸島購入計画が実行されれば、日中関係が極めて重大な危機に陥る。我々は過去数十年の努力がゼロになることを許せない」と発言した。その後彼は中国大使を更迭される予定であったが、後任の二宮中国大使が路上で急性心不全のため死亡したため、引き続き丹羽が続投し12月16日に依願退官した。丹羽は伊藤忠商事の取締役を務めていて、2010年6月、初の民間出身の大使として赴任した。ちなみに彼は名古屋の出身で、愛知県立惟信高等学校を卒業後、名古屋大学法学部に進んでいる。名古屋大学では自治会長として60年安保闘争の先頭に立っていた。

これに先立つ2010年7月、尖閣諸島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に衝突し、中国漁船の船長は日本の海上保安庁に逮捕された。中国政府はこれに激しく抗議し、様々な対抗措置を取ってきた。レアアースの禁輸、許可なく軍事管理区域を写真撮影したとしてフジタ社員4名の身柄を拘束するなど。結局、中国漁船の船長は処分保留で釈放された。

2000年に結ばれた日中漁業協定では、「日本の領土であるが、中国が領有権を主張している尖閣諸島の北方に関しては、「暫定措置水域」の設置で妥協された。
•暫定措置水域内では、いずれの国の漁船も相手国の許可を得ることなく操業することができ、各国は自国の漁船についてのみ取締権限を有する(§7)。
•同水域における操業条件は日中共同漁業委員会が決定する。同水域において相手国漁船の違反を発見した場合は、その漁船・漁民の注意を喚起すると共に、相手国に対して通報することができる(§7-3)。」(以上Wikipediaより引用)

自国の漁船に対してのみ取り締まり権を有すると明記しているにもかかわらず、なぜ日本が中国漁船に対して、日本の国内法を適用して中国漁船を拿捕しようとしたのか。

その背景について「小説外務省-尖閣問題の正体」では次のように書いている。
1、鳩山が「普天間基地の最低でも県外」を主張
2、米側は日米合意の順守をするように、日本側に述べた
3、鳩山の「最低でも県外」を潰した
4、しかし2010年、沖縄県知事選で伊波が勝利すれば、辺野古移設が実施できない。前原はこれに大変な危機感を持っていた
5、伊波の勝利を阻止するためにはどうするか。「米軍が必要だ」という状況を作ればいい。それは何か
6、沖縄周辺に危機ができればいい
7、危機をどう作るか。尖閣問題で紛争を起こせばいい
8、どうやって紛争を起こすか。日本側の対応を変えればいい。違反する船は違反行為をやめさせ、領海から退去させるとしていたのを、日本の漁業法という国内法で対応する。すなはち拿捕する。

日中国交正常化交渉の中で田中角栄と周恩来、その後の平和条約締結の際の園田外務大臣と鄧小平副首相との会談の中でも尖閣問題は棚上げしようという合意があった。1975年5月31日付読売新聞社説でも「尖閣諸島の領有権問題は触れないでおこう方式で処理されてきた。」と言っています。それを「棚上げは合意」はなかったと歴史的事実を捻じ曲げ、日中の関係を壊してきたのは、まさに米国の「日本と近隣諸国の関係を領土問題で緊張関係においておく」という戦略に沿ったものだといえます。ロシアとの北方領土問題、韓国との竹島問題、アメリカが日本に駐留し続けるためにはこれらの問題の解決をさせないことが一番重要だからです。

この小説の最後に(時代設定は2021年)、インフレで年金の価値が下がり、消費税が上がり、TPP参加によって国民健康保険は崩壊し、医者に行くには私的健康保険に加入しなければならなくなった。若者層の就職はますます難しくなった。これまで無意識に自民党に投票してくれていた高年齢層、若者層が自民党を離れ始めた。そこでナショナリズムに訴えるしかないということになり、尖閣諸島に自衛隊員を10名程度常駐させることにした。これに対して、西京寺大介は首相に最近の中国の北戴河会議での決定について報告し、自衛隊の尖閣諸島駐留をやめるように進言するのだった。北戴河会議での決定とは「日本が尖閣諸島の主権をより確立させようとするときに乗じ、わがくには尖閣諸島の実効支配への行動をとる。この時は軍事行動も含む。軍事行動は海軍、空軍、ミサイル部隊の出動を容認する。具体的軍事行動は、中央軍事委員会に一任する」というものであった。

日中関係の改善には尖閣問題の「棚上げ合意」を認め、2000年の日中漁業協定を順守する以外にはないだろう。力の解決は不可能である。

「小説外務省-尖閣問題の正体」 孫崎享著 株式会社現代書館 2014年4月20日発行 1600円+税
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by irkutsk | 2014-10-05 10:04 | | Comments(0)