「非除染地帯」を読みました(1月20日)
放射線の生物への影響については、いまだその症例が少なく、また長期間にわたる影響のためはっきりしないというのが現状ではないだろうか。人体への影響も低レベル放射線の場合、その因果関係を明らかにすることはむずかしく、多くの人が、泣き寝入りを強いられることになりそうである。
非除染地帯に生息する生物は、放射能に汚染された餌を食べ、人間がいなくなった場所でこれまで以上に繁殖している。もちろん放射線の影響を受けているのだが。
福島第一原発がばらまいた放射性セシウムはこれからも長く森にあり続ける。セシウム134の半減期は約2年、セシウム137は約30年である。放射能は原発から海に直接流れ出ているもののほかに、事故時に山や陸地に降下したものが堆積し、その後、雨によって流され、川へ流れ込み、海へと流れていく。
また避難区域で村から人がいなくなったところではイノシシや、サル、ツキノワグマなどが増え、えさを求めて無人の人家にも侵入してきており、避難解除がなされても、戻って農業を再開することは困難になっている。
川に住むアユたちは、川底の石に生えたコケを食べている。川には放射能に汚染された周囲の森の木の葉が落ち、谷川に集まり、増水のたびに少しずつ下流の方へ流される。待ち受けていた川虫がその葉をかみ砕き、放射能を体内に取り込む。あるいは分解物が放射能もろとも藻類に吸収されたり、付着したりする。そのためアユが放射能をため込み、釣っても食べられないため、アユは繁殖し、養殖して放流しなくてもいいくらいに増えている。だが、食べられないアユなので増えてもどうしようもないのである。
2014年春、事故から3年がたち、浜通りでは除染事業費がどんどん消化され、避難区域の周辺部では住民が戻され始めている。だが除染不可能と判断された山林や川や海の生き物たちからは依然として放射能が検出され続け、住民への恵みも失われたままだ。この事故が列島の自然環境に与えた傷はかくも深い。
福島県内ではすべてのイノシシ肉(ほかにツキノワグマ、キジ、ヤマドリ、カルガモ、ノウサギの肉も)の出荷制限が依然として続いている。イノシシは行動範囲が広く、汚染されたイノシシがほかの地区に行き、そこで捕獲され、肉に基準値を超える放射能があれば、その地区のイノシシ肉は出荷できなくなる。
原発事故発生から4年目を迎えてもなお、除染はわずかな面積にとどまり、放射能は生態系に入り込んだままだ。事故由来の放射能が野生動物たちの体にどのくらい入り込んでいるのか、また生態系の中でどんなふうに動いているのかの究明が進む一方で、一体いつになったら元通りの状態に戻るのか、回復を促す有効な処方箋はないのか、最も知りたい疑問にはだれも答えることができない。
「非除染地帯」 平田剛士著 緑風出版 2014年10月15日発行 1800円+税