「クレムリンメソッド」を読みました(3月31日)
第1の原理 「世界の対局を知るには、「主役」「準主役」「ライバル」の動きを見よ」
金力(経済力)、腕力(軍事力)でダントツなのはアメリカ、そしてライバルは中国。EUは巨大な経済力を持っているが、なぜ主役やライバルになれないのか。それは巨大な軍事力を持つアメリカに実質「軍事支配されている」から。日本の場合もEUと同じです。アメリカは世界における超法規的存在である。
第2の原理 「世界の歴史は覇権争奪の繰り返しである」
16世紀はスペイン、17世紀はオランダ、17世紀末になるとイギリス、そして20世紀後半からアメリカが世界の覇権を握っている。近い将来ライバルである中国との間で代理戦争という形で覇権を巡る争いが起きるだろうと著者は予測している。
第3の原理 「国家にはライフサイクルがある」
混乱期(移行期)→成長期→成熟期→衰退期という不可逆的な国家のライフサイクルがある。日本は1950年朝鮮戦争を機に成長期に入り、1990年代初めにバブルがはじけて、いまは成熟期である。中国は日本に遅れること30年、鄧小平の経済開放政策により成長期に入り現在は成長期後期である。インドは1991年に経済が自由化され、今が成長期前期である。若年人口が増え続けるインド経済は安定して急成長していくだろう。そういう点では日本は欧米との関係を維持しつつ、インドとの関係をますます緊密にしていく必要がある。
第4の原理 「「国益」とは「金儲け」と「安全の確保」である」
国民は金がもうかれば喜び、金がもうからなければ悲しむ。国民の金儲けが安定すれば政権は安定する。平和憲法のおかげだけで70年間日本は平和だったのではない。世界最強の国家アメリカと「安保条約」を結んでいるから平和だった。小国は自分の安全を確保するために大国にしがみつく、大国は他の大国に勝ち、小国を支配するために小国を守る。
第5の原理 「「エネルギー」は「平和」よりも重要である」
エネルギーなしには個人も企業も国家も生き残れない。アメリカの戦争はエネルギーを巡るものだった。イラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を持っている、アルカイダを支援しているというウソで戦争を始めたが、真の理由は「石油の強奪」だった。ウクライナ問題でもウクライナのシェールガスを確保するためには親米政権を樹立させる必要があった。グルジアでもリビアでも同じだった。しかしシェール革命によってアメリカの「資源枯渇恐怖症」はなくなった。中東の重要度は低下した。そこでオバマはアフガン・イラクからの撤退を決断し、戦略の重点を「アジアにシフト」した。
第6の原理 「「基軸通貨」を握るものが世界を制す」
アメリカは世界最大の貿易赤字国、財政赤字国、対外債務国であるにもかかわらず破産しない。それは「ドル」が基軸通貨だからである。他の国は、赤字分はドルを借りて支払わなければならないが、アメリカはドルを印刷するだけでよい。
アメリカを没落させるにはドルを基軸通貨の地位から引きずりおろせばいい。つまりドルの使用量を減らし、他の通貨で決済をするようにしてしまえばいい。多極化を進めようとするEUは共通通貨ユーロを誕生させた。そしてイラクが石油代金の決済をユーロにすると言ったことがアメリカの逆鱗に触れ、潰されていった。イランも核開発をしていると言って制裁を受けているが、本当は石油代金の決済を「ドル以外」にすると言ったことが原因である。ロシアはロシア産資源の決済をルーブルですると宣言し、中国もリーマンショック後、IMFの特別引き出し権(SDR)を国際通貨とするよう提案している。中東諸国も共通通貨の導入を打ち上げたが、延期されている。
基軸通貨であるドルを追い落とす動きはますます広がっている。野田総理が「日中の貿易取引を円または人民元でしよう」という中国の提案を受け入れた時、びっくりしたが、その後どうなっているのか?
第7の原理 「「国益」のために、国家はあらゆる「ウソ」をつく」
国家はどこでも本音と建前を使い分けている。本音とは真の動機、建前とはもっともらしい理由(きれいごと)。もし本音を言ったら国民が国を支持しなくなる。
第8の原理 「世界のすべての情報は「操作」されている」
世界には次のような情報ピラミッドが存在する。米英情報ピラミッド(日本はここに含まれている)、欧州情報ピラミッド、中共情報ピラミッド、クレムリン情報ピラミッド、イスラム情報ピラミッド。これらの情報ピラミッドによってそのピラミッド内にいる国民は洗脳されている。同じ情報を繰り返し与え続けることによって、ウソも100回言えばホントになる。そしてもうひとつ、他の情報を遮断すること。逆に情報ピラミッドの洗脳から抜け出すには他の情報ピラミッドを見ればいい。
第9の原理 「世界の「出来事」は国の戦略によって「仕組まれる」」
どうすれば覇権国家でいつづけることができるか、どうすれば覇権に一歩でも近づけるか、その目標をたてて、そのために必要なことは何かを考えて念入りに計画を立てている。これが戦略を立てるということだ。歴史的事件や現象はその結果として起こっている。
第10の原理 「戦争とは「情報戦」「経済戦」「実戦」の三つである」
情報戦ではまず国民を洗脳し、戦争することへの動機づけを与える。そして国民があたかも「自らすすんで戦争をする」ように誘導する。対外的にも国際社会において自らの主張で国際社会を洗脳する。情報戦で優位に立ったら、「経済戦争」でできるだけ相手を弱らせておく。そうすれば実戦で勝利できるし、実戦なしで勝利することもできる。
第11の原理 「「イデオロギー」は国家が大衆を支配する「道具」にすぎない」
共産主義など信じていなかった旧ソ連共産党のリーダーたちはソ連崩壊後、即「民主主義」に転向した。アメリカの新自由主義も然り。またかつての日本では「負け戦」に向かっていく当時の政府を、日本国民自身が「圧倒的に支持していた」。
最後に彼は日本の自立は、わたしの自立からであると言い、世界的視野、大局観、歴史感、自分と相手の利害、プロパガンダを見抜く力を身につけることが大事だと言っている。
今日、アジア投資銀行(AIIB)の創立メンバーの募集が締め切られた。創立国メンバーに参加しなかったのはアメリカと日本。この動きは欧州各国、ロシアもアメリカ一極支配から多極化へと動いているということだ。中国は次の覇権国家を目指している。アジア投資銀行には同床異夢の国々が参加して、これからその運営を巡ってつばぜり合いが始まることだろう。蚊帳の外に置かれた日米はどうするのか?
中国とアメリカの覇権争いが今後ますます熾烈になり、欧州は公然とアメリカに反旗を翻し始めた。今後の世界情勢を見るうえで本書は非常に役立つ一冊である。
「クレムリンメソッド」 北野幸伯著 集英社インターナショナル 2014年12月20日発行 1600円+税