「トンネルの森」を読みました(10月22日)
太平洋戦争のさなか、幼くして母を亡くしたイコは新しい母親になじめぬまま、生まれたばかりの弟と三人で千葉の小さな村へ疎開する。家のそばにある、暗くて大きな森の中で脱走兵が自殺したうわさを耳にするが、ある夜、森からハーモニカの調べが流れてくる。
耐え難い孤独感と飢餓感はトンネルの森のように覆いかぶさり、押しつぶされそうになった時、イコは兵隊の影を追いかけ森に入るが……。
戦争中の少女の目を通して、戦争中の日本の生活がどんなものだったのか、疎開先で地元の子供たちに溶け込もうと必死で地元の言葉を覚えるイコ。同じ疎開っ子のカズコは反対に地元の子に溶け込めず、一人何かを書いている。そんなカズコに興味を覚えたイコは思い切ってカズコに声をかけ、彼女のうちまで遊びに行く。カズコの家は、病気で寝ている母親と小さな妹のミッちゃんの3人暮らしだったが、カズちゃんの家には百科事典があり、カズコはそれを覚えるために書き写しているのだという。またオルガンもあり、時々母親が弾いてくれるという。
戦後70年と言われ、過去のことを忘れようと政府は言っているが、70年前のことは決して忘れてはならいことだと思う。今、北朝鮮はひどい独裁国家だとみんなが思っているが、70年前日本人は今の北朝鮮の国民と同じだったのだ。政府や指導者を批判することは許されず、嘘の情報しか伝えられず、天皇陛下という言葉を口にするときは直立不動の姿勢で、敬語を使って話さなければならなかった。
そして今の安倍政権は70年前の日本を肯定し、そこへ回帰しようとしている。国民が過去を忘れるとき、それにつけこんで、再び日本を自由のない社会にしようとする動きが活発になってくる。過去を忘れないためにも、若い人たちに是非読んでほしい本である。
「トンネルの森」 角野栄子著 角川書店 2015年7月20日発行 1200円+税