「無垢の領域」を読みました(2月9日)
図書館での書道展も天気のせいもあり、訪れる人は少なかった。そこへ一人の若い女性がやって来て、熱心に見ている。芳名帳への記帳を頼むと、時間をかけて楷書で見事な字を書いた。「林原純香」と書かれていた。やがてやって来た図書館長の林原信輝の10歳年下の妹だということが分かった。龍生は彼女に自分の書の感想を聞いたところ、前へならえの姿勢をして、「この幅からでてこないの、この字。紙の大きさに負けてるの。飛び出したいのに飛び出せない。怖がって書いている。紙のことも、墨のことも」と言った。秋津の心は痺れたままだった。浮遊感、あるいは底を打ったような気持ちよさを感じた。
純香は25歳だが、少女の心のまま大きくなってしまった。信輝とは母は同じだが父が違う兄妹だった。道央で祖母と暮らしていたが、その祖母が夏に亡くなり、しばらく純香は一人で暮らしていたが、一人暮らしは無理だと信輝の中学時代からの友人・里奈が言ってきた。そして純香を引き取って一緒に生活することにしたのだった。
信輝たちの祖母も書家で、母親も書家だったが、母は純香が3歳の時に入水自殺してしまった。純香は祖母の手ほどきを受け手本を忠実に写す能力は完ぺきだった。
秋津に、純香に書道教室を手伝ってもらえないだろうかと頼まれ、信輝は純香に話すとやりたいというので週2回秋津の書道教室を手伝うことになった。
また秋津の妻・怜子は林原とのメールのやり取りをするうちに、彼に惹かれていく。
秋津と怜子の不倫、中年男・龍生と純香、母親の半身不随は詐病であることがひょんなことからわかってしまう。そして、物語の後半、思いがけない展開にショックを受ける。
直木賞受賞後第1作のこの本はすばらしい内容だった。
「無垢の領域」 桜木紫乃著 新潮社 2013年7月13日発行 1500円+税