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「また次の春へ」を読みました(4月17日)

「また次の春へ」を読みました(4月17日)_d0021786_19201517.jpg突然の厄災で失われた人、傷ついた土地。鎮魂と祈りの七篇。収録作品:トン汁/おまじない/しおり/記念日/帰郷/五百羅漢/また次の春へ

最初の話は「トン汁」。脳溢血で突然亡くなった母親。告別式をすませ、父の田舎へ。親戚のための小さな葬式をすませ、納骨し、自宅へ戻って来た。父と兄(中1)、姉(小5)、僕(小3)は母がいない寂しさに、打ちひしがれていた。その時父が「腹減ってないか」とトン汁を作り始めた。豚肉のコマ切れともやしでトン汁を作ってくれた。モヤシ入りのトン汁は、その日から、わが家にとって大切な、特別の料理になった。そして東日本大震災の時、ボランティアでそのトン汁を作って避難生活を送っている人たちに提供したのだった。

他に東京でもどかしい思いを抱え、二カ月後に縁のあった被災地を訪れた主婦マチコさん。1年しかいなかったその町で、クラスの一番の仲良しだったケイコちゃんと二人で公園で遊び、ケイコちゃんはお別れした友達とまた会えるおまじないをマチコにリクエストした。そんなものはなくマチコは適当に自分で作ったものを教えた。そして40年後マチコは公園で40年前の自分と同じくらいの女の子が二人、ケイコちゃんに教えたおまじないをやっていた。子どもたちに聞くと、お父さんのころからあって、二小の伝統になってるのだという。

3番目の「しおり」は高校入試に行った帰りのバスの中、早苗と慎也は今日の試験問題について話していて、慎也は国語の読解問題に出されていた小説が気に入ったので読んでみようかなと言った。分厚くて文庫じゃないから高いと思うよと早苗が言い、高校の国語教師をしている早苗の母親が持っているというのを聞いて、慎也は借りると言う。そして本を借りていき、3月11日のあの日、午前中に中学の卒業式を終えた慎也は自転車で遠出をしてカレイの投げ釣りを楽しんでいた。6月11日、慎也の母親が借りていた本を早苗の母に返しに来た。その本の8章あるうちの1章が終わったところにしおりが挟まれていた。葉っぱの葉脈だけが網目模様になったしおりを買って、早苗にお礼のつもりで上げるつもりだったんだろうと慎也の母は言う。

4番目の「記念日」は東北大震災で被災した人たちからカレンダーが欲しいという要望があったと小学校の担任教師に聞かされ、みんなで、家にある使っていないカレンダーを送ってやろうという話。麻衣のうちでも3月なのですでに余分なカレンダーは処分してしまったし、家で使っているのを一つ送ろうということにした。でもそのカレンダーには家族の誕生日や結婚記念日、今のうちに引っ越してきた記念日などの印がついていた。ハートマークや花マルのついたカレンダーをもらった被災者はどう思うだろうと考え、修正液で消した。そして1~3月の分はやぶって出した。ところがカレンダーをもらった人たちからは、3月がついているカレンダーがほしいというリクエストがあったそうだ。また麻衣のうちのカレンダーをもらった佐藤さんという一人暮らしのおばあさんから、修正液で消したところにはなんて書いてあったのか教えてほしいと依頼があったそうだ。そして麻衣さんの誕生日に貝殻をきれいに磨いて色を付け、穴をあけて紐を通しただけの、本当に素朴なアクセサリーが送られてきた。貝殻の裏には「まいこちゃん、おめでとう」の手書きのメッセージと、今日の日付が書いてあった。

「また次の春へ」 重松清著 文春文庫 2016年3月10日発行 520円+税
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by irkutsk | 2016-04-17 19:20 | | Comments(0)