「小説秒速5センチメートル」を読みました(6月10日)
そして二人は家から少し離れた私立の中学校を一緒に受験することを決め熱心に勉強するようになり、二人で過ごす時間はますます増えていった。ところが小学6年生の冬の夜。明里の父親が北関東の小さな町に転勤することになり、明里も一緒に行くことになってしまった。
二人は手紙のやり取りをしていたが、中学1年の3学期に貴樹も転校が決まった。九州の種子島へ。明里のところへ東京からなら電車を乗り継いで3時間程度で行ける。九州に行ったらもう会えない。貴樹は手紙で明里と相談して、学期末の授業後、明里の住む北関東の小さな町へ行くことにした。
その日は雨で、途中から雪に変わった。電車が遅れ、約束の7時になっても電車はまだ目的地のかなり手前だった。結局駅に着いたのは4時間遅れの11時過ぎだった。駅に着くと明里は待合室で待っていた。明里の作って来たおにぎりとお弁当を二人で食べ、駅員に12時に駅を閉めるからと言われ、明里に案内してもらって桜を見に行く。そしてその桜の木の下で明里と初めてのキスをした。二人は畑の脇にあった小さな納屋で夜明けまで過ごした。土曜日の朝、貴樹は両毛線の電車に乗り込み、ホームに立っている明里を見て気づく。「僕たちはこれからひとりきりで、それぞれの場所に帰らなければならないのだ。」
種子島へ行った貴樹はサーフィンに夢中な女の子・澄田香苗の視点から描かれる。中学・高校と5年間同じ学校に通った二人だが、香苗は自分の気持ちを伝えられない。そして貴樹は東京の大学へ。
大学一年の時、恋人ができた。アルバイトを通じて知り合った横浜の女の子で、その子とは1年半ほど続いた。「あたしは遠野くんのことが今でもすごく好きだけど、遠野くんはそれほどあたしを好きじゃないんだよ。そういうの分かっちゃうし、もう辛いの」と言って彼女は泣き、彼女との関係は終わった。
大学を卒業して貴樹はソフトウェア開発会社に就職し、取引先の水野理沙と付き合うようになる。しかし彼女との関係も仕事を辞めるのと時を同じくして終わった。
初恋の思い出をそれぞれの胸に抱いて、それぞれの道を歩き始めた二人が一緒になることはない。しかし13歳の時にあったことは二人の心に残り、まるで栄養のように体の一部になっていく。映画もすばらしかったが、小説で読むとまた違った世界が見えてくるようだ。
「小説秒速5センチメートル」 新海誠著 角川文庫 2016年2月25日発行 520円+税