「「意地悪」化する日本」を読みました(6月30日)
内田:安倍内閣の支持率が下がらないのは彼の屈折の仕方が、ある種の日本人たちの抑圧されたセンチメントにすごく響きあうものがあるからだろう。
内田:彼は確信犯的に首尾一貫性のないことを言っている。論理的整合性がないことを指摘しても、気にならない。言葉はその場しのぎで、次につなげるためのルール。その場が乗り切れれば、いくら言質をとったつもりでいても、「そういうつもりで言ったわけではない」と鼻先で笑って終わりですよ。
内田:二人(安倍首相と橋下元大阪市長)を駆動している政治的情念がある種の「怨念」という点でしょうね。安倍さんがルサンチマンを抱いている対象というのは抽象的に言うと「戦後レジーム」ということになる。要するに大日本帝国の戦後に新たに作られた仕組みの全体が彼にとっては許しがたいものとして見えている。だから安倍さんは最終的に東京裁判を否定し、日米安保条約も否定することを目指しているんだと思います。つまり戦後の対米従属そのものを大日本帝国と同じような主権国家に作り直さなければならないと思っている。ただそれは無意識のレベルです。
内田:戦争が始まってしまえば、もう誰も戦争に反対できませんから。政府批判したら、そこら中から「非国民」という罵声が飛んでくる。ある意味時間との勝負。株価が下がる前に、アメリカが「安倍切り」を決める前に、とにかく「戦争ができる国」にしておいて、戦争を始めたい。
内田:どの政党も新自由主義政党になった。生活者に対する想像力がどんどん失われてゆく。経済成長論者ばかりになった。社会資源の分配を通じてどうやってフェアネスを達成してゆくかにあまり興味がない。
福島:意地悪というのは今日の日本のキーワードですね。パイがどんどん小さくなって、お金がどんどんなくなる中で、ちょっとでもいい思いをしている人間を叩く。決して悪人を叩くことはない。善人が叩かれている。
内田:自民党とSealdsは組織原理がみごとに対照的。自民党では一人のボスがすべてを命令して他の人は個人としての見解を述べる権利さえない。他方Sealdsは全員固有名詞で、全員が等しく、自分の言葉で自分の意見を語ることができる。
内田:今、社会が激動期に入っている。いろいろな仕組みが壊れて新しいものに変わる「移行期的混乱」のうちにあると思う。
内田:原発もやめる。経済成長もあきらめる。そのほうがいいんじゃないですか。株の官製相場なんてやめて、限りある国民資源をみんなでフェアに分割しながら、助け合って暮らしていったらと思います。
内田:日本は安全保障戦略も、食料も、エネルギーも、医療も、教育も何一つ重要な政策を自前では決められない従属国なんです。アメリカが許可しているかどうかをつねに忖度し、そうしなければ政策を打ち出せない非常に悲しい国であるという現実を見つめて、その上でいかにしてアメリカから自立を果たすか。
福島:内田さんは「正直・親切・愉快」というキーワードを使った。貧困や孤立からくる嫉妬、焦り、恐怖が渦巻き、それが嫌韓・嫌中にもつながっている。こうした「意地悪」化する日本において、「正直・親切・愉快」に生きること。「社会の激動期を生きるのは、楽しいことですよ」という内田さんの言葉に励まされ、正直に、親切に、愉快に生きようではないか。
7月10日の参議院議員選挙にはぜひお出かけください。激動期の社会に生きる者としてできる一つの行動です。
「「意地悪」化する日本」 内田樹×福島みずほ 岩波書店 2015年12月15日発行 1600円+税