「よっつ屋根の下」を読みました(11月14日)
父親の転勤によって、小学6年生の僕は東京から千葉県銚子市に引っ越した。といっても父と二人だけで。母と妹は東京の白金のマンションに残って、父と一緒に来るのを拒んだのだ。中学受験をあきらめ、塾通いも亡くなり、海の見える田舎町で父と二人暮らしが始まる。
最初に同じクラスの子が訪ねて来てくれたのは、佐丸というひょろりとした長身の男子だった。彼も2年生の時に津田沼から転校してきたのだと言う。彼に「地球のまるく見える丘展望館」や犬岩、犬吠埼の灯台などに連れて行ってもらう。そして宮本の家へ行くからお前も来いよと誘われて、宮本の家に行くとバーベキューをやっていて、クラスのほかの子も来ていた。
母が訪ねてきたが、母は泊らずに東京へ帰っていった。父の転勤をめぐって「医療ミス」をしたから転勤させられたという噂があると同級生の女の子に言われ、誰がそんなことを言っているのか追及すると、佐丸の母親だという。だがそれは女の子の苦し紛れの嘘で、本当は入院中のおばあさんからきいたゴシップだった。
父の病院でベテランの医者が勤務中に病院を抜け出していて、一人きりの研修医が運び込まれた急患にあたふたし、投薬ミスをした。この問題で父は病院に事故を起こさない体制作りを要求して、飛ばされたのだった。
二つ目の話は、最初の話の父親が学生時代の頃の話で、大学の教授の喜寿お祝い会で、とても美人で彼には高根の花と思われる女性に一目惚れし、結婚するという話。
三つ目は、最初の話の小6の僕の母親の話。彼女の父親はほかに女性がいて、彼女との間に同い年の女の子がいるという。それを知ったのは中学生の時。クラスメイトの素子に華奈ちゃんによく似ている子がうちの近くにいると言われて、写真を見せてもらったことから華奈の心は騒ぎ始めるのだった。
四つ目は僕の妹・麻莉香の話。女子高に通っている。そしてそこである事件に巻き込まれるのだが、そのピンチを救ってくれたのは同じクラスで今まであまり話をしたことのなかった野村さんだった。そして彼女の父が、麻莉香父が転勤させられる原因となった勤務中に病院を抜け出していたベテラン医師だったのだ。
五つ目の話は、小6の転校生だった僕は大学生になり千葉の大学に通っている。調子からは遠いので千葉に下宿している。妹の麻莉香は祖父の隠し子が住んでいる札幌の医大に進学した。母親はフィンランドへインテリアの勉強に行くことになる。そして僕は白金のマンションに引っ越して、そこから千葉の大学へ通うことにした。
病院での改善要求を機に田舎に飛ばされた医師とその家族の物語が、それぞれの家族の立場から書かれており、なかなか面白い構成だった。東京から田舎へ父と二人で移り住んだ主人公は何もない田舎に寂しさを覚えていたが、都会にはない人々の温かさや自然があふれていて彼の成長には大きなプラスになっている。大学生になった彼は小6の時に父について銚子へ行ったことを後悔していないと思う。だが、やはり家族は一緒に暮らすのが一番だ。家族4人で銚子へ引っ越してきていれば、4人がもっと違った人生を歩んでいただろう。
「よっつ屋根の下」 大崎梢著 光文社 2016年8月20日発行 1300円+税