「パン屋を襲う」を読みました(2月10日)
僕は主人に打ち明けた。
「とても腹が減っているんです」「おまけに一文なしなんです」
「そんなに腹が減っているんならパンを食べればいい」
「でも金がないんです」
「金はいらないから好きなだけ食べりゃいい」
「いいですか、我々は悪に向かって走っているんです」
「だから他人の恵みを受けるわけにはいかない」
「なるほど。そういうことなら、こうしようじゃないか。君たちは好きにパンを食べていい。そのかわりワシは君たちを呪ってやる。それでもかまわんか」
「俺は呪われたくない」と相棒
「でも何かしら交換が必要なんだ」と僕
「どうだろう。君たちはワグナーが好きか?もしワグナーの音楽にしっかりと耳を傾けてくれたら、パンを好きなだけ食べさせてあげよう」
一時間後、我々は互いに満足して別れた。
「再びパン屋を襲う」
妻と昔のパン屋襲撃のことを話す。
「我々は腹いっぱいパンを食べることができた。にもかかわらず、そこに何か重大な間違いが存在していると我々は感じたんだ。そしてその誤謬は原理の知れないままに、我々の生活にまとわりつくようになった。
妻はもう一度パン屋を襲うことを提案し、二人は深夜の町へ車を走らせる。
「パン屋を襲う」 村上春樹著 新潮社 2013年2月25日発行 1700円+税