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「パン屋を襲う」を読みました(2月10日)

「パン屋を襲う」を読みました(2月10日)_d0021786_22504512.jpg二日間水しか飲んでいない二人の男は包丁を持って、パン屋に出かけた。もう午後も遅かったのでパン屋の店内には一人しか客はいなかった。だらしのない買物袋をさげたいかにも気の利かなさそうなオバサンだ。オバサンは気の遠くなるほどの時間をかけ、揚げパンとメロンパンをトレイに載せた。しかしそれをすぐに買うというわけではない。彼女はメロンパンを元の棚に戻し、少し考えてからクロワッサンを二つそっとトレイに載せた。そしてしばらくして今度は揚げパンが棚に戻された。オバサンはクロワッサンを2個買って店を出て行った。

僕は主人に打ち明けた。
「とても腹が減っているんです」「おまけに一文なしなんです」
「そんなに腹が減っているんならパンを食べればいい」
「でも金がないんです」
「金はいらないから好きなだけ食べりゃいい」
「いいですか、我々は悪に向かって走っているんです」
「だから他人の恵みを受けるわけにはいかない」
「なるほど。そういうことなら、こうしようじゃないか。君たちは好きにパンを食べていい。そのかわりワシは君たちを呪ってやる。それでもかまわんか」
「俺は呪われたくない」と相棒
「でも何かしら交換が必要なんだ」と僕
「どうだろう。君たちはワグナーが好きか?もしワグナーの音楽にしっかりと耳を傾けてくれたら、パンを好きなだけ食べさせてあげよう」
一時間後、我々は互いに満足して別れた。

「再びパン屋を襲う」
妻と昔のパン屋襲撃のことを話す。
「我々は腹いっぱいパンを食べることができた。にもかかわらず、そこに何か重大な間違いが存在していると我々は感じたんだ。そしてその誤謬は原理の知れないままに、我々の生活にまとわりつくようになった。
妻はもう一度パン屋を襲うことを提案し、二人は深夜の町へ車を走らせる。

「パン屋を襲う」 村上春樹著 新潮社 2013年2月25日発行 1700円+税
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by irkutsk | 2017-02-10 16:41 | | Comments(0)