「ビコーズ」を読みました(5月26日)
小学校3年の時、左の眼が突然見えなくなってしまった。でもうちに帰ると祖父が亡くなっていた。目の異常を誰にも言えぬまま、目は2日ほどですっかり回復した。そしてそれ以後も時々左の眼が見えなくなり、2、3日後には、元のように戻るのだった。
新人賞を受賞したぼくは、その後短編は書いたがぱっとせず、長編第二作目を編集者に催促されるがちっとも書けない。そんな僕は由紀子というスナックで働く彼女と住んでいる。気立てのいい彼女についつい皮肉を言ったり、彼女のすることにケチをつけて自分の憂さ晴らしをし、由紀子を傷つけるが、そのことに全く気付いていない。
そんな時、寺井から電話がかかってきて、向かいの喫茶店で待っているという。寺井とは10年前、一人の女性・映子をめぐって三角関係になり、ぼくの子供を宿した映子を道連れにぼくは心中しようとした。だが心中は失敗に終わり、二人とも生き残った。映子は彼のもとから姿を消し、どこにいるかわからなかった。そのことがずっと気になっていた。しかし、寺井の彼女のことを聞きたくないのかという問いに「聞きたくない」と答える。そして、あのことはもう終わったことだと僕は言うが、寺井は「終わってないから、おれたちはこうして会っているんじゃないのか」と追及する。
結局、ぼくは映子とのことを自分の中で何も決着をつけていないことに気づき、彼女の居場所を探し始める。そして、ようやく彼女の居場所を突き止め会いに行くのだが…。
かなり身勝手なぼくの存在に、嫌気がさしてきました。自分の周りの人間に対する気遣いがあまりにもなさすぎ。自分のやりたいこと、言いたいことをただやるだけという幼児性が抜けない、大人になれないぼくの存在。そして彼を取り巻く人たちのやさしさ。それが唯一の救いであった。
「ビコーズ」 佐藤正午著 光文社文庫 1988年5月20日発行 420円