「存在の美しい哀しみ」を読みました(6月14日)
一つ一つの話が、短編のようで完結しているのだが、それは大きなストーリーを構成しているジグソーパズルのような関係で、全部を読み終えて登場する一人一人の人間の生きざまが見えてくる。
榛名の母・奈緒子が聡の父・芹沢喬と21歳の時に知り合ったのが、すべての物語のスタートだった。当時奈緒子は私大の文学部生で、喬は音楽大学でチェロを専攻していた。奈緒子は友人に誘われて音大の文化祭に行き、そこで喬と知り合う。長身でたくましい身体つきをしているわりには、顔に繊細さとあどけなさが目立つ男だった。喬の父親は財閥の流れを汲むグループ企業の取締役。母親の一族には芸術家が多く、喬もチェロの才能に恵まれ、将来を嘱望されているということだった。
大学を卒業したら、二人でウィーンに新婚旅行に行き、プラハに留学する。子どもは日本に帰って落ち着いてから作ればいいと言っていた。しかしプラハ行きが決まり、その準備をしている最中に、思いがけず奈緒子の妊娠がわかる。結局つわりがひどかった奈緒子は日本に残り、喬一人がプラハへ行くことになった。奈緒子は喬の両親と3人で暮らしていたが、子供を産んだ後で、この家を出ることを決心していた。
そんな折、前の勤め先の同僚から結婚披露宴の案内状が届き、出席することに。そこで3歳年上の後藤信彦と同じテーブルの隣同士になった。在職中から顔を合わせれば冗談を言い合う間柄だった。ここでの出会いをきっかけに、急速に後藤と親しくなり、やがて聡の出産後、今度は後藤の子どもを身ごもることになるのだった。そしてそのことが発覚し、聡は芹沢にとられ、離婚され、後藤と再婚。そして後藤の子・榛名を産んだのだった。
人生、何がきっかけになってその人の人生を大きく変えるのかわからない。
「存在の美しい哀しみ」 小池真理子著 文春文庫 2013年2月10日 495円+税