「沈黙のひと」を読みました(7月21日)
新しい家庭では二人の娘・可奈子と千佳をもうけた。しかし、妻の華代は父に冷たく、厄介者扱いし、彼がパーキンソン病を患ってからは、ますます父につらく当たっていたようである。
「さくらホーム」に父が入所してから衿子はしばしば父を見舞った。父は入所当初はワープロを使って、手紙を書いたり、衿子にファックスを送ってきたりしていたが、病気の進行とともにワープロも使えなくなり、ホームの職員との意思疎通も困難になってしまった。沈黙を続けることしかできない状態が続いていた。衿子が文字表を作って持っていき、その文字を指さすことによってかろうじて自分の意思を伝えることができたが、やがてそれも困難になってきた。
父の死後、父の遺品を整理し、父のワープロの中に残っていた手紙の原稿や、日々、父かつづった文章を発見する。その手紙や手記から父がどのような人生を送ってきたのか、時折見舞いに訪れた衿子への感謝の言葉などが書かれていた。
晩年父は何もしゃべれなくなったが、父が残してくれた手紙や手記のおかげで、彼がどのような人と付き合い、どのような考えを持っていたのか。今まで衿子が知らなかった父の姿が浮かび上がってくるのだった。
小池真理子の自らの体験をもとにして書かれた小説であるだけに、迫真に迫る内容であった。
「沈黙のひと」 小池真理子著 文春文庫 2015年5月8日発行 600円+税