「二重生活」を読みました(9月1日)
『他者の後をつけること、自分を他者と置き換えること、互いの人生、情熱、意志を交換すること、他者の場所と立場に身を置くこと、それは人間が人間にとってついに一個の目的となりうる、おそらく唯一の道ではないか』
こういう書き出しで始まる本書の主人公、白石珠は25歳の大学院生。母は高校の時に膵臓癌で亡くなり、父はドイツのドレスデンで働いている。そこへは日本人の愛人を伴っている。兄も一人いるが全く疎遠である。7歳年上の普通のサラリーマンで早く結婚して、子ども作って、今、千葉に住んでいるという。彼女自身は何となく気の合う卓也と同棲生活をしている。
珠は大学の講義で教授話した「文学的・哲学的尾行」をやってみることにする。P駅前で妻が送ってくれた車から降りた石坂(彼は珠が住むマンションの向かいにある庭付き一戸建てのうちに住んでいて、娘と3人で幸せそうに暮らしている)を尾行していくと、なんと彼は浮気をしていて、不倫相手と会いに行っていた。何回か尾行を続けているうちに、珠は、石坂としのぶの関係が自分と卓也の関係にオーバーラップしてしまう。卓也はアルバイトとして近くに住む女優・三ツ木桃子の運転手をしているが、深夜まで帰ってこないことがよくあるし、卓也が桃子について話している話の調子などから、親子ほども年が違う桃子と卓也の関係を疑い始め、妄想が妄想を呼び、確信へと変わっていく。だが具体的な証拠は何もない。
無目的の尾行を行うはずだったが、だんだんと二人の関係がどうなっていくのかということを知りたいという目的ができていく。そして二人にも尾行を気づかれてしまい、石坂にP駅で声をかけられてしまう。そして珠と卓也との関係はどうなっていくのか?
前半は無目的の尾行という意味の分からないことをやっていたが、後半になってそれぞれの立場からの思いがぶつかり合い、思いがけない展開となっていく。
わたしもふと他人を見ていて、この人の人生はどんなものなんだろう。もし今の自分とこの人の人生が入れ替わったら、自分は満足するだろうか。この人の見かけはすばらしいが、内面は、背後の事情はどうなんだろうなどと考えることがある。やっぱり自分は自分の人生を歩むのが一番だとおもう。
「二重生活」 小池真理子著 角川文庫 2015年11月25日発行 680円+税