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「満天のゴール」を読みました(1月27日)

「満天のゴール」を読みました(1月27日)_d0021786_1162996.jpg奈緒が小学4年生の息子涼介と二人で故郷の丹後半島にある実家へと向かうところから小説は始まる。奈緒が故郷を出たのは22歳の時。そして今、11年の時が経っている。京都から乗った特急を宮津で降り、そこからまたバスで2時間。バスは15分前に出たばかりで、次のバスまで1時間近くも来ない。

奈緒は東京で、家族3人で暮らしていたが、夫の浮気が発覚し、しかも夫はその相手と結婚したいので別れてくれと告げたのだった。

奈緒は夫の寛之の気持ちが変わることを期待して、夏休みに入ったばかりの涼介を連れて実家へ向かっているところだった。

駅前のバス乗り場で、一人の老婦人が雨の中で倒れているのを見つけた涼介が駆け込んでくる。奈緒は彼女に駆け寄り「救急車を呼びましょうか」と尋ねるが、タクシーで帰るから大丈夫と、ちょうどやってきたタクシーに乗っていった。奈緒はその声にどこか聞き覚えがあった。

実家は年老いた父が一人で暮らしていた。兄は結婚してうちを出、京都に住んでいる。母はまだ奈緒が故郷にいた時に亡くなった。涼介と奈緒の父が畑に出かけたが、父が運転するトラックが軽い接触事故を起こしたという連絡が入った。電話をかけてきたのは事故の相手ではなく、たまたま通りかかったという海生病院の医師・三上からだった。父は大腿骨骨折で入院することになった。京都の兄に連絡して、すぐ来てもらおう、そして自分は明日東京に帰ろうと思っていたが、兄からはすぐには行けないとつれない返事が戻ってきた。

奈緒は仕方なく故郷にしばらく残ることにした。そして海生病院で看護師を募集していて、奈緒は看護師として働いた経験は全くないが一応資格は持っているので、そこで働くことにした。こどもと二人、生活していくためには仕方なかった。

そして、父が事故にあったとき連絡をしてくれた海生病院の医師・三上と、彼が往診している、近所に住む早川さん、神社の神主をしていたトクさんなど一人暮らしの高齢者との関わり合いが描かれている。早川さんは奈緒と涼介が宮津の駅で助けたおばあさんだった。トクさんも早川さんもがんに侵されていたが、手術や抗がん剤治療を拒否し、自宅で一人で生活していた。そして三上の往診と訪問看護を受けていた。

彼らはゴールを目指して生きていた。三上医師に頑張ったご褒美にと星のシールをもらい、それを画用紙に張り付けていた。満天のゴールを目指して。この星のシールは三上が子供の時、アル中の父親と、彼を育ててくれた祖母の看病に明け暮れていた時、訪問看護師として来ていた早川から頑張ったご褒美としてもらっていたものだった。

この本の中で気に入った言葉をいくつか書き留めておきます。
「親が子供に何かをしてやれる期間はそう長くはない」
「子供が感じる幸せは貧富の差とは比例しない」
「死はゴールなのだ。人が死ぬということは、決して悲しいだけじゃない」
「誰にも救ってもらえないのなら、あなたが救う人になればいい。救われないなら救いなさい」
「自分の頑張りに星をくれる人がいる。それだけで人は生きられるのかもしれない」
「人は記憶の中に生きているのだ」

現役の看護師をしている著者ならではの小説でした。

「満天のゴール」 藤岡陽子著 小学館 2017年10月31日発行 1400円+税
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by irkutsk | 2018-01-27 05:05 | | Comments(0)